ショコラティエではなく、元々が農業技術者である高橋さんがチョコレート作りを始めたのには、理由がある。
2015年に、バナナのオーガニック栽培と収量の向上という当初の目標を達成した高橋さんは、本格的にカカオの農業支援を行うようになった。そこで気づいたのは、希少な独自品種も、香味が若干劣る改良品種も、カカオ豆として売られるときには、同じ価格になってしまうということ。それでは、収量が多く育てやすい改良品種を育てる人が増え、伝統品種を作る人がいなくなってしまう。
農家の収入も課題だった。カカオ豆のまま販売しても、農家に入る収入はごくわずか。チョコレートの生産まで、自社で、かつエクアドルで行うことで、農家によりきちんとお金を回せると考えて、チョコレートの製造・販売を決意した。こうして2018年に設立されたのが、ノエル・ベルデだ。
ノエル・ベルデのチョコレート(提供:ノエルベルデ)
「チョコレートは、品種などの豆の遺伝的な要因が5割、日照時間や気温、発酵、ローストなどの後天的な要素が1割」と高橋さん。
その味に大きく影響する品種に関して、数ある中でも高橋さんが気に入ったのが、最初に植えられた2000本のうち5本だけ見つかった、特に香味のよい「パイーツ」という品種だ。ここの組合員は、収量の多い改良品種も育てるが、高橋さんの勧めで、パイーツも栽培している。
2020年には、組合メンバーにとって嬉しいニュースがあった。この地域独自の遺伝子を持つ独自品種のカカオ豆が見つかったのだ。名前こそまだないものの、つぎ木や挿し木などの方法で増やし、現在600本が植えられているという。
「このカカオの木は、私たちのアイデンティティ」と、メンバーの一人、マリベル・オルギンさんは大きな笑顔を見せた。
この地域の独自品種のカカオの木の前で(右から2人目がオルギンさん)
農家自らが競争力を持つように
収穫したカカオ豆の処理の手順を見せてもらった。収穫した豆は月桂樹の木でできた箱の中で数日間発酵させ、同じく月桂樹の木の板の上で乾燥させる。
高橋さんがチョコレートの生産を始めたことは、このメンバーの刺激にもなっている。オルギンさんは、豆の乾燥度を測る水分計を購入し、より完全な状態の豆を作ろうと努力を重ねていて、高橋さんも時々訪れては、発酵の状態の見極め方など、持っている知識を惜しみなく伝えている。
「自発的に、カカオ農家自らが競争力をつけていくことが、このレイズトレードにおいて、最も大切なこと。私は、必要とされる時に、いつも近くにいて、サポートしたいと思っています」と高橋さんは語る。