そんなエクアドルで、生産地と平等な取引をする「フェアトレード」から一歩進んで、生産地と共に育つ「レイズトレード」という考えのもと、地元の人たちと共にチョコレート作りを行っている日本人がいる。
高橋力榮さん、46歳。彼とエクアドルの出会いは2008年、妻の実家が営む、エクアドルのバナナ農園「田辺農園」に農業研究者として渡ったのがきっかけだった。農業の専門家として、バナナの有機栽培に取り組む中で、現地の固有種で、希少な「アリバ種」のカカオ豆と出会い、自らの知識をカカオ栽培に活かし、ビーントゥーバーのチョコレートを作ろうと「ノエル・ベルデ」を設立した。
今回、エクアドルにて、高橋さんに「レイズトレード」の現場を案内してもらった。
現地でチョコレートまでつくる理由
エクアドルの首都・キトから車で西に3時間あまり。サン・ドミンゴ県は、エクアドル国内でカカオの生産量が一番多い地域だ。治安があまり良くないという市街地を抜けて、さらに車で山道を走ること30分。ラ・コンコルディアという町に到着する。車を停めて10分ほど歩くと、そこに高橋さんが契約している農家の“カカオの森”があった。
カカオの産地は、整然とカカオの木が植えられているのをイメージすると少し違う。雑木林のように、様々な木々がある中、所々にカカオの木が枝を伸ばしている。単一の植物のみを育てるプランテーションとは正反対で、多様な植物がある中で育てる、パーマカルチャーと呼ばれる手法だ。
「諸説ありますが、エクアドルはカカオの原産地と考えられています。昔から、こんな形で生えていたのでしょう」と高橋さん。
元々自生していたカカオもあったが、地元のカカオ栽培組合「コセーチャ・ドラーダ」メンバーの一人、ラモン・ブラボーさんのお父さんが、約50年ほど前に2000本ほどのカカオの木を、すぐ南のロス・リオス県から運んできたのが、本格的な栽培の始まりだという。
組合員は、一人あたり数ヘクタールのカカオの森を持ち、カカオの木と相性の良いバナナの木を合間に植え、豚を飼って、豚の堆肥に下草を刈り込んだ有機肥料を与えて育てているそうだ。
高橋さんは、2020年から、日本のチョコレートの祭典、サロン・デュ・ショコラにチョコレートを出展しており、はるか遠く離れた日本で自分たちのチョコレートが愛されているということは、メンバーの誇りにもなっているという。