中道:特にアメリカは様々な文化が混ざり合っているので、今までにないことを作り上げていこうとしますしね。そもそも、それまでの生活を嫌がって移民としてアメリカに住んでいるわけですから、基本的に“アンチ過去”な国民性があるはずです。
村瀬:そうですね。
中道:世界的な立ち位置で見ると、アメリカと日本が両端で、真ん中にヨーロッパがあるイメージです。感覚的には、ヨーロッパは一歩踏み出すことに躊躇はしないものの、歴史もそれなりに重視する。一方、日本は江戸時代が300年続いたように、良くも悪くも新しさを必要としてこなかった。
そう思えば、日本にはアメリカと同じことはできないし、やろうと思わない方がいいはず。僕ら日本人だからこそ持っていること、勝てることがあるはずだと。
村瀬:だからこそ、西欧はリヨンのシルクのようになくなってしまう文化も少なくないのかもしれません。
僕は、「西欧は目の文化で、日本は手の文化」という話をよくするのですが、西欧はコンセプトなど、何を見てどう考えるかである一方で、日本は手で作って、使っていきます。
ただ、ラグジュアリーマーケットにおいて価値をつけるには、目の文化であるフランスやイタリアといった国のうまさが際立っています。フランスやイタリアのブランドとはいえ、生産地は他国だったりしますから。それだけに、モノ作りとそれを使う暮らしが生活に溶け込んでいるという世界でも稀有な文化を、日本の価値として発信していきたいと思いますね。
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中道:安く・多くという、海外と同じことをするからうまくいかないだけで、ラグジュアリーブランドとして売り出していければ、ものすごい可能性を秘めていると思います。
村瀬:実際に、ヨーロッパのラグジュアリーブランドはリサーチの為に有松を訪れたりしています。ほかにもパリで行われる繊維の見本市では、手仕事とラグジュアリーブランドを繋げようと、主催者が世界中から数十社の企業を招待したりもします。
僕らも2度招待されてディオールやシャネルといったハイブランドのデザイナーや関係者が軒並み来られて、非常に興味を持ってもらった感触がありました。
中道:一方で、以前、日本酒の蔵元の方に聞いた課題も印象に残っています。それは、日本酒を広めようとするとき、フランスのワイン協会のソムリエたちに評価してもらおうとすれば、絶対にワインを超えられなくなるということ。ルイ・ヴィトンやシャネルに評価されるかではなく、「自分たちのスタイルはこれだ」と言えなければいけませんよね。