村瀬:その通りです。フランスのうまいところは、まさにその点で選択者は我々という立場を作っているところです。ルイ・ヴィトンはクリエイティブディレクターにアメリカ人の黒人を登用したこともあり、「我々は誰でも入れるという許容がある」という印象を与えたりもしています。
フランスで三ツ星を取った日本人シェフもいますが、それは日本で言えば、寿司コンクールでフランス人が日本人を上回って賞を獲得するようなものです。日本ではまず起こらないことですが、フランスだと実現できたりもします。もちろんシェフの相当な努力と素晴らしい才能が大前提ですが、そういった他人種や文化を取り込むところに、フランスの価値の作り方のうまさがあります。ただ、それを「フランスに認められた」といった枕詞だけで使ってしまうのは問題だと思います。
中道:そもそも負けてしまっているという印象を与えてしまいますからね。こうした話は世界に出なければわからず、わからなければいつまでも海外に利用されるままになります。だからこそ、日本国内にとどまっている人たちには、どんどん世界に打って出ていってほしいところです。外に出ると自分たちの実際の価値を知れるので、進むべき道や表現方法も自ずとわかるものですよね。
村瀬さんは今後のビジョンをどのように描いていますか。
村瀬:今一番やりたいことは、まさにその価値と人の地理的な循環ですね。
2008年にブランドを立ち上げてから15年が経ち、今まで27カ国で販売してきました。売上比率としては75%がヨーロッパで、12〜3%が北米、それ以外が日本やアジアとなっています。大半がヨーロッパで、コロナ禍でも売上が落ちなかったエリアでもありました。一つの小さなローカルから世界に発信して現地でマーケットを築いたという実感もあります。
その次のタームとしてこれまでは15年かけて世界に出ていったので、これからは世界で根付いたユーザーの方々に日本を訪れてもらい、職人たちと触れあえるような循環を作っていきたいと考えています。
実際にコロナ前に、パリの有名なセレクトショップで僕らの商品を購入されたお客様が、日本を訪れる際に、「suzusan」を調べて有松まで来てくださったことがありました。僕もたまたま日本にいたので、一緒に有松の町を歩いてモノ作りの過程や背景を説明でき、感銘を受けて帰国していただけました。
その方に、有松を訪れた思い出とともに、商品を日々使っていただける姿を想像すると、非常に有意義なことができたのではないか、と感じています。
中道:僕がやりたいことも全く同じで、実は本来国がやるべき政策だとも考えているほどです。ただ、なかなか難しい部分もあるので、僕らみたいな人間が力を合わせ、何かしら大きな形にしていきたいですね。
村瀬:国も政策的に目を向けつつあると感じるものの、大事な何かが抜けている印象もあります。それこそ、「suzusan」が生まれたきっかけは、日本に行ったこともなければ、ファッションも知らないドイツ人学生の考えからです。海外に打って出るには、日本人では及ばない考えを持ち、売り方を知っている人材をどう引き込むかがカギになりそうです。
中道:だからこそ、“醤油を使ったことない層”がターゲットだと。
村瀬:そこにフォーカスを当てなければ、日本で日本人だけで考えて商品を作っても、外国人には使い方がわからないままです。
マーケティングに従事するイタリア人の友人と、インテリア・デザインの見本市である「メゾン・エ・オブジェ」を一緒に回った際、日本のブランドや行政が支援している商品の印象を聞いたとき、「It’s very beautiful, but for what? (すごく美しいと思うけど、何のため?)」と口にしていました。日本で使うなら意味があるけど、ヨーロッパの生活で使うことはできないと。
中道:醤油を知らない人に醤油を使ってもらうには、まず醤油を使ってない人を知るべきだということですね。今回は日本文化の継承は日本だけにとどまらないと、改めて思い出させられた回でした。