暗闇は全部知っている。『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』に教わること

写真提供=ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ


一人ひとりの「困りごと」を共有し、対話する


公立学校では、障害理解教育として、これまでにもさまざまなプログラムが行われている。アイマスク体験、白杖体験や車椅子体験などが年間数時間だけ実施されている学校もあるが、「それらとは明らかに異なる体験だった」と参加者は口を揃える。これまで学校で行われてきた障害理解教育の多くは、日常の価値観が大きく揺さぶられるものではなかった。

これまでの子どもたちの感想は、「かわいそう」「自分が障害がなくてよかった」「大変だから助けてあげたい」、など自分より「弱い立場の人をサポートしてあげる」という視点か、もしくは、パラリンピック選手などの講演に対しては「障害があるのに頑張って何かを成し遂げてすごい」というものが大半を占めている。


第2部の最後にダイアローグ・ジャパン・ソサエティの志村真介さんのお話を聞く(写真提供=ベネッセこども基金)

しかし今回は、それらとは全く質の異なる体験だ。「不安なとき、自分から待ってと言えなかった。発信する難しさを体験した」ことで、「困っていることを共有して解決方法をみんなで考えると良いと思った」「誰かの声が聞こえるとホッとした」「ここに段差があるよ、階段があるよと自然に声に出してみんなに伝えられた」などどうすればその状況を打開できるかを全員が共に考え、行動できるようになっていく。今の日本社会ではマイノリティとなってしまうキャストたちも、そこでは「助けてあげなければならないかわいそうな人」ではない。「自分とは違う感覚を駆使できる人」であり、「対等に対話できる」、「共に考えることのできる仲間」となる。

『地図を持たないワタシ』では、さまざまな課題を通して対話をした後には、互いの第一印象が変化することも実際に体験する。「マジョリティだと思っていた私が最も簡単にマイノリティになった」「言葉を使えず、細やかな思いを伝えられないもどかしさを体験した」「キャストが自己開示してくれたことで私も開示でき、対話が深まった」などの場面もあった。

また、『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』では、どんなに目を凝らしても全く何も見えない真の暗闇に包まれる。「暗闇で一歩も動けなかった」「アテンドがいなければ心細かった」「目に見える社会では役割に振り回されるが、暗闇の中ではフラットになれた」「むしろ暗闇のほうが心がつながりやすい」「最初は不安だったけど、だんだんみんなといると安心できるようになった」と、その初めての体験にこれまでにない衝撃を受けていたようだ。「もう少しこの暗闇の中にいたいと思った」という感想への共感も多かった。
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文=太田美由紀

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