一方、鮮やかで明るい色にもかかわらず、レッド・オレンジ・イエローの着用頻度が低かったことからも、黄味の強い色や、青みを含まないレッドは、お顔に映えず苦手でいらしたのだろうし、女王の内面的特徴と比較するとカジュアルでポップすぎたのかもしれない。
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ベージュやブラックという地味な色の着用率の低さからは、公的な場では最も利用する意味が少ないものだったこともわかる。それらは目印の役目も果たさないだけでなく、元々自分の存在を控える色だ。実際、ダークカラーの服を着用した写真は非常に少なく、あったとしてもキラキラしたディテールのあるものを着用していた。
カラフルな服に合わせられた細部
エリザベス女王は習慣を大切にする方だったと聞いている。当然マニキュアにもこだわりがあり、エッシー(essie)の「バレエスリッパ」という淡いピンク色を、30年近く愛用された。カラフルな服装のほとんどに合う、ニュートラルな色だと考えられてのことだろう。
様々な色の服を着ることを前提に、自分の中の揺るがない定番や基準を持ち続ける。指先の細部に至るまで見られることを意識していらした証拠だ。
また、バッグはロウナー・ロンドン、靴はアネーロ&ダヴィデのものを、黒で揃えて持っていらっしゃるシーンを多く目にした。これもネイルと同様、カラフルな服のほとんどに合う上に、重みとシャープさが加わる。人に見られるためのスタイルを確立する定番アイテムとして、万能だったに違いない。
いつもの「鮮やかさ」がない写真
一方、9月6日付でロイヤルファミリーのSNSアカウントから投稿された、エリザベス女王が英国新首相と対面している写真を見ると、いつもの鮮やかさはなくライトグレーでまとまっている。
アイテムも、トップスはブラウスにニット、ボトムスには従来お好きではないと言われていたチェック柄のスカートをあわせ、パールのイヤリングとネックレス、黒のバッグを身につけていらっしゃった。
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心身ともにエネルギーがないと、明るい色や鮮やかな色も自分を駆り立てる役目を果たさないだけでなく、着用することでエネルギーを消耗し疲労してしまうものだ。もともと控えめな色を好んでいなかった方が、それらを身に着けるようになるときは、かなり心理的/身体的に弱っていると考えられる。
筆者はこの写真を目にしたとき、もしかしたら崩御の日が迫っているのかもしれないとふと感じた。そしてイギリス時間9月8日にニュースで知ることとなった。
自分の姿を明らかに目立たせ、公の場で晒す事とはどれだけの危険を伴うことか。改めて考えても、一般市民の筆者には「なんと勇気のいることだったろう」くらいの平易な言葉以外、浮かべることさえ難しい。同時に「私は、信じてもらうために見られなければならない」という言葉に、女王であることの重積と強い意志を感じずにはいられない。
最後まで女王然とした姿を世界に示されたエリザベス女王、そのプレゼンスは英国国民だけでなく、世界の多くの人々の記憶にビジュアルとしてしっかりと刻まれている。
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I have to be seen to be believed.
「私は、信じてもらうために見られなければならない」
Her Majesty Queen ElizabethⅡ、あなたがそれを実践してこられたお姿、鮮やかな印象とともに決して忘れません。