化学技術の衰退、日本でのワクチン開発の行方は

伊藤隆敏の格物致知


投稿、査読を経て掲載許可(accept)が出るのは、一流誌の場合、投稿論文の数パーセントである。実験系の科学では大規模な装置やラボの維持が必要だ。欧米の研究大学では、優れた研究実績のある研究者を何人雇用しているかが重要だ。優秀な研究者を教授陣に揃えることは、優秀な学生を集めることにもつながる。研究大学は、人材も引き抜くために給与の大幅引き上げをためらわない。

東京大学をはじめとする日本の研究大学が、世界で戦う(大学ランキングの順位を上げる)ためには、大幅な研究費の増額と研究者の給与の引き上げが必要だ。しかし、文部科学省の現在の大学行政のなかで、研究費の大規模増額、一流の研究者の給与大幅引き上げは、予算的になかなか難しい。さらに大学でも、教員の間に給与格差ができることに感情的に反対する人たちもいる。なかなか「安かろう、悪かろう」状態からの脱却は難しい。

今年、国家予算を使って10兆円の大学ファンドが設立された。これによって起死回生となるか、次号で考えてみたい。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に、『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。

文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.098 2022年10月号(2022/8/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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