日仏2拠点からヨーロッパ特化へ ニース在住シェフが「学び直す」理由

写真=松嶋啓介


中道:具体的に、どんな難しさを感じましたか。

松嶋:伝えようとしている考えや情報は、僕が海外に出て命がけでやってきたからこそ得られたものであり、命がけで仕事をしていない人には響きにくい。その差に大きな違いがありますね。

たとえば僕らが海外で得た経験や、そこから来る危機感を現場に伝えたところで、「いや、そんな危機感よりも毎日の生活費を稼ぐ方が大変です」と返されたりもします。何を重視しているかで価値のある情報も違ってくるものです。

それにこういった話も、自分自身が日本で出店し、閉店したことを経ているから、冷静に口にできている可能性もあります。フランスに渡った当時は、そういったことは全くと言っていいほど理解できていなかったと思います。

中道:確かに、僕も人に伝えて変わってもらうより、自分たちでやった方が早いと思い、緑茶のブランドを立ち上げたとも言えます。

ただ、このままでは日本は立ち行かないという危機感はやはり抱いてしまいます。人口も減少していますから、今までと同じことを続けているのは問題だなと。

松嶋さんはこれからも、日本にベースこそ持たずとも、関わりは持ち続けると思います。コロナ禍が収束し、出入国がよりオープンになったときには、以前同様に行ったり来たりの生活に戻るのでしょうか。

松嶋:以前のやり方には戻らないと思います。Zoomという便利なサービスもあるので、現地にどうしても行かなければいけないという案件でなければZoomで対応しようと考えています。


コロナ禍を機にオンライン料理教室なども実施。画像中央右が松嶋氏

やはり今まで移動をし過ぎて疲れていた部分は否定できないので、これからは日仏の往復に費やしていた時間をヨーロッパの各都市を訪れるために使い、学びを増やしたいですね。それと同時に、ヨーロッパで得た経験を伝えることができればと考えています。

ヨーロッパの人たちと話をしていると、目が覚める経験をすることが多くあります。例えば、ヨーロッパの人たちにうま味の説明をすると、「何も知らなかった」「教えてくれ」という反応があります。興味を持っているから理解も早く、「それは研究しなければいけないし、人類はより理解を深めなければいけない」という話題に移ります。

ところが、日本人はなんとなく聞いたことがあるからか、知ったかぶりで話半分に聞く人たちがほとんどです。「うま味なんてわかっている」と言いがちで、深い話題にはならないんですよね。

中道:なるほど。ちなみに、ロンドンは訪れることはありますか。

松嶋:たまに行きますね。

中道:ロンドンには僕のオフィスもあり、子供たちがイギリスの学校に通っていることもあり、それこそ行ったり来たりしている場所です。ロンドンの帰りに、ぜひニースにも立ち寄らせていただくので、その時はよろしくお願いします。

松嶋:ぜひ、寄ってください。

文=小谷紘友 編集=鈴木奈央

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