日仏2拠点からヨーロッパ特化へ ニース在住シェフが「学び直す」理由

写真=松嶋啓介


松嶋:そうですね。今でも自治体や企業との取り組みは増えています。

これまでは飲食業として、一人ひとりを食で喜ばせることに重きを置いてきましたが、今後は公衆衛生などの正しい知識をより多くの人に伝えることで、幅広く、多くの人に幸せになって頂きたいという思いです。

活動としては、食べて美味しいと感じる短期的な幸せではなく、健康であり続けるという長期的な豊かさにシフトチェンジしていると言えそうです。取り組みの結果が目で見えるようになるまでにはまだ時間がかかりそうですが、手ごたえは着実に得られているので、そうした活動はこれからも続けていければと考えています。

中道:その活動はヨーロッパとの接点もありそうに感じます。僕はイギリスで生活していたこともあり、日本人はアメリカよりもヨーロッパの感覚に近いという考えを持っています。日本との親和性は食の歴史の深さや考え方だけでなく、人生全体への取り組み方も含まれていると言えそうです。

松嶋:そうですね。歴史なども含め、僕自身が学びやすい環境にいるので、もう一度学び直している段階になります。


夏のバカンスではイタリアを訪れ、オレキエッテづくりを学んだ

中道:僕としては、今後の日本は見通しが暗く思え、「今のままでは危ない」という危機感がこの番組をはじめたきっかけでもあります。コロナ禍だけでなく、このまま自分たちの子供世代が大人に成長したとき、日本はどうなってしまっているのかと。

今の日本は、将来のために何か行動しなければならないターニングポイントに差し掛かっている一方で、海外から見れば、多くの価値が眠ったままという状態でもあります。

その眠った価値を外へ出そうと、個人的な取り組みの一つとして、緑茶のブランドを展開しています。緑茶は海外ではグリーンティーと言われますが、実は日本産はほとんど出回っていません。

国内農家は国内需要のみへの供給だけで、ジリ貧の状態。数百年にもわたって代々受け継いできたにも関わらず、今後はなくなる可能性が出てきています。それにもかかわらず、海外では日本産のグリーンティーが望まれているという矛盾があります。

この状況は日本の文化がなくなることに等しく、もったいないとしか言えません。また、緑茶における需要と供給の国内外でのアンバランスさは、氷山の一角でしかなく、日本国内には同じような事例がたくさん眠っているはずです。

僕は、日本文化が海外に伝わるきっかけづくりに取り組んでいますが、松嶋さんのように海外在住の日本人の方々も、そういった活動はやられているのでしょうか。

松嶋:僕もそういう思いから、東京に店舗を構え、人材を育成し、海外でも仕事をしてきました。日本の食材を海外で提供したり、プロモートしたりすることで、自分の価値観も広がっていきます。それらは今後の日本にとって重要なことだと考えていましたが、思いと裏腹に難しさがありましたね。
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文=小谷紘友 編集=鈴木奈央

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