「静かな退職」が増えている
労働者が仕事と距離を置く最近の形態は「静かな退職」と呼ばれている。これは実際に仕事を辞めることではないが、雇用主が放置しておくと従業員が実際に辞めてしまう可能性がある。静かな退職とは、仕事の目的を達成するために最低限の仕事しかしないことだと考える人もいる。一方で、健康的なライフワークバランスを保つために、雇用主や上司との間に厳格な境界線を設けることと考える人もいる。小売店で働く人にとって、決められた時間だけ働くなど、すべきこと以外のことはしないことを意味する場合もある。
しかし実店舗で顧客と接する小売労働者は、このような境界線を設けると機転をきかせて顧客関係の問題を解決したり、意思決定の際に権限を発揮したり、率直にいうと昇進したりする能力が制限される可能性がある。小売業では、顧客と接する労働者を管理職にすることで、期待を上回る以上の仕事をこなす人を評価して報酬を与えてきた。
とはいえ、従業員と雇用者の双方が期待するものが明確である限り、従業員が現在の仕事に留まることを望むことにまったく問題はない。燃え尽きてしまい、ストレスの多い職場環境に対処するために静かな退職をする労働者の場合、雇用主がより良い労働条件を促進・整備して困難な職場環境の問題を進んでみつけて対処しようとしない限り、結局は仕事を辞めることになるかもしれない。
ケリーは「静かな退職」の定義が若干異なる可能性があると述べ、仕事の量が減っていることを意味するが、ワークライフバランスの境界線を設定することで結果的にそうなる可能性があるとも指摘した。「労働者は1日の中で仕事の効率を上げ、仕事のストレスやプレッシャーから解放されるための時間を見つけることで一歩引いている」と話す。雇用主にとって「静かな退職」は従業員の士気を高めるためにヨガ時間やコーヒータイムなど、職場の風通しを良くする機会となる、とケリーは考える。
成功している一部の大手小売企業では、高いモチベーションを持ち、仕事に熱心な従業員が顧客満足とサービスのために自分の職務以上の取り組みをすることで、すでに強固なサービス文化に拍車をかけている。米百貨店チェーンのノードストロームや小売チェーンのコンテナ・ストアは従業員の離職率が低いことで知られ、顧客の信頼感を高めるサービス文化が確立されている。家電量販店のベスト・バイは最近、顧客の商品選びを一層サポートするために、技術的な支援を提供し知識豊富なスタッフを配置していることが評価されている。
サービス格差があるホリデーシーズン
小売企業は店舗にホリデー商戦のスタッフを置く計画を具体的に検討しているが、学習意欲が高く、職務内容以上のことを喜んで手助けをしてくれるホリデー商戦スタッフを配置するのは難しそうだ。従業員の仕事に対する意識に影響を与える要因を考えると、優れた顧客サービスを誇る店舗はロイヤリティを高めるサービス文化を継続することが難しくなるかもしれない。
労働市場の逼迫と労働者の意識の変化により、小売業者のホリデーシーズンの雇用は難しくなり、販売のピーク時に業界全体でサービスの格差が生じる可能性がある。
(forbes.com 原文)