もう1つ、日本のウェルビーイングビジネスを語るうえで欠かせないのが、住む人たちのウェルビーイングを実現する「スマートシティ」「スーパーシティ」などの街づくりです。
都市部への人口集中による課題を解決するために提起されたのがスマートシティで、地方の人口減少による課題を解決するために提起されたのがスーパーシティ。生まれた経緯は異なりますが、いずれも、IoTセンサーや自動運転、ドローン、スマートビルディングなど、最先端のテクノロジーを駆使して持続可能な都市や地域をつくることを目的としています。
先行して始まったスマートシティ構想のいくつかは、すでに実証、実現の段階に進んでいます。例えば、富士山裾野でトヨタ自動車が推進している実験都市「ウーブン・シティ(WOVEN CITY)」、三井不動産グループの「柏の葉スマートシティ」(千葉県柏市)、ソフトバンクが実現を目指す、東京・竹芝地区のスマートシティ構想などです。
スーパーシティ構想には、全国31の自治体から応募があり、1年以上の検討を経て、ようやく2022年3月に、つくば市(茨城県)と大阪市(大阪府)の2地区がスーパーシティの特区に内定しました。
また、吉備中央町(岡山県)、茅野市(長野県)、加賀市(石川県)の3地区が「デジタル田園健康特区(仮称)」として整備する方針が示されています。これらの構想で、ここにきてウェルビーイングの視点の重要性が叫ばれてきています。従来テクノロジーありきで進められる傾向が強かったことでその問題点が浮き彫りになりました。
例えば、オンライン診療で自宅にいても医師とつながることができる環境は、本当に高齢者のウェルビーイングを実現することになるのか。コロナ禍で高齢者の認知機能の衰えが指摘されていますが、その最大の理由は、ほかの人とのリアルなコミュニケーションが激減したことでした。
高齢者にとっては病院は、外出先の一つであり、近所の友人、知人との大事なコミュニケーションの場でもあります。通院の必要がなくなりコロナの感染リスクの低減にも効果的である一方、その場所を完全に奪ってしまうのは、ウェルビーイングの視点から考えるとデメリットもあると思われます。
テクノロジー主導で街づくりを考えると、そういったウェルビーイングが見落とされがちになります。必ずしもテクノロジーありきではない、広い視点のスマートシティ構想、スーパーシティ構想への転換が、今、ウェルビーイングな街づくりに求められています。