ウェルビーイングと深く関係するものに、マインドフルネスがあります。これは、文字通り「マインドをフルにした状態」、つまり「『今、この瞬間』を大切にする生き方」のこと。一瞬一瞬の呼吸や体感に意識を集中し、「ただ存在する」トレーニングをすることで自己受容、的確な判断、およびセルフコントロールが可能となるというアプローチです。
マインドフルネスが世界中に普及するきっかけとなったのは、マサチューセッツ大学医学校名誉教授のジョン・カバットジン博士が仏教の瞑想法をベースとして、「マインドフルネス瞑想」というプログラムを開発したことでした。
日本の禅に影響を受け、仏教を宗教としてではなく人間の悩みを解決するための精神科学としてとらえたことで、誰でも抵抗なく実践できるものになったのです。アップルやグーグル、フォードなどの大企業が社員の健康を維持、向上する取り組みとしてマインドフルネス瞑想を導入したことでも知名度が高まりました。
北米ではこのマインドフルネスを事業領域とするスタートアップが多数立ち上がっています。
米調査会社のピッチブックによると、20年に米国でウェルビーイング技術分野のスタートアップは約110億ドルの資金を調達。19年より約3割多く、過去最高を更新し、投資を受けた企業数も350社を上回り、5年前よりも2割以上多い水準となるなど急成長しています。
その中でも注目されている企業の一つが、アプリを使った瞑想の指導や快眠のための読み聞かせを提供するCalm(カーム)です。ダウンロード数が1億に達した実績が評価され、20年12月に米投資ファンドのTPGなどから7500万ドル(約80億円)を調達。5年前に6億円だった評価額は、現在2200億円にまで成長しています。
米国で導入が進む理由
一方、日本では、こうしたサービスに関する大きな動きはなく、盛り上がってるのが「ウェルビーイング経営」の領域です。Googleトレンドをみると2014年頃から検索数が急増。特に「従業員のウェルビーイング増進」が大きなテーマとなっています。
生産人口の減少、グローバル競争の激化などにより、優秀で多様な人材の獲得・確保が企業の持続的な成長の必須課題となるなか、経営コンサル会社から人材派遣、さらには能力開発系スタートアップ企業に至るまで、HR領域をドメインとする企業の多くが、この「ウェルビーイング経営」を戦略テーマに据え、さまざまなソリューションを展開しています。