その中でもウェルビーイングは、「身体的・精神的・社会的に良好な状態」と広範な意味を持つことから、新しいマーケットを作り出せるキーワードとして注目されている。
では、例えば食領域では、ウェルビーイングのために何ができるのか。それはヘルスに対するアプローチと何が違うのか。そこにテクノロジーはどう貢献するのか。
この春、味の素の新社長に就任し、「幸せの素の好循環」を掲げる藤江太郎氏と、ウェルビーイングの有識者であり、30年以上前に「藤江さんがくれたうな重が決め手で味の素に入社した」というインテグレート社長の藤田康人が対談した。
藤田:当時、就職活動でありがたいことにいくつかの内定をいただいく中、御社とはおそらく10回以上の面接があったと思います。あるときは一日中“拘束”されて、本当は他社の最終面接があったのに行けなくて。疲れきっていたら藤江さんが「特上のうな重」を頼んでくださって。ああ、いい会社だなと思い、味の素に入ろうと決めたのは本当の話です。
藤江:当社には、「人を求めてやまず、人を活かす」という方針があります。金太郎飴みたいな集団を作るのではなくて、雑木林のようにいろんな人たちがいる組織にするべく、人事・採用もその軸で動いていました。
グローバルでの発展を見据えたときに、日本人的な良さのある人も大事ですが、藤田さんのようにいい意味でとんがっている人、自分で考えて、「僕はこう思います」とはっきり言える人に来ていただきたいと思ったんです。
私は当時3年目で、採用の担当というか、電話係だったんですよ。今では日程調整もオンラインやメールですが、当時は家への電話ですからね。それでコンタクトポイントも多かったので、思い入れもありました。
藤田さんが数年で独立、その後活躍されているのは聞いていて、機会があればお話ししたいと思っていたところをつないでいただき、今年の1月、お会いしたのは実に30年以上ぶりでしたね。
藤田:今回、ウェルビーイングというテーマでの対談ですが、振り返れば、私が人生で最初に働く会社に味の素を選んだのも、漠然と幸せや健康について考えるなかでの選択だったのかなと思います。当時、美味しさと健康を明確に打ち出し、しかも世界と戦える会社は他にありませんでした。
入社後、私は原材料の営業担当で、小売企業や外食企業を相手に低カロリー甘味料を売っていました。例えば、コカ・コーラさんにダイエットコークを出していただくような仕事です。実は、そのコーラの変遷が面白く、今となってはカロリー“オフ”あるいは0キロカロリーが主流になり、この数年では、脂肪の吸収を抑えるような機能を“オン”したコーラも出てきました。