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2022.07.08 08:00

食と幸せの関係は? 味の素新社長に「ウェルビーイング」を聞いた

鈴木 奈央

藤田:ところが、最近は「クラフトコーラ」なんですよね。砂糖が入っていて健康に良いとは言い難いけれど、手作り感やナチュラル感がうけ、環境負荷も少ないなどというプロセスが支持されている。

私はこの変化を見て、ヘルスでは捉えきれない新しい幸せ感というか、ウェルビーイングに目を向けていかないといけないと思ったんです。

藤江:当社は1908年に東京大学の池田菊苗博士が昆布からグルタミン酸ナトリウム(うま味のアミノ酸)を発見し、それを「味の素」として製品化、事業化してきました。当時、日本人の体格が海外の人と比較すると大きくないなかで、おいしく食べて、体づくり、健康づくりをしていこうと。現在では「Eat Well, Live Well」とも言っていますが、その創業の志が、ウェルビーイングと密接に関係しているというのは改めて感じます。

社長就任にあたって、当社が大切にしてきたものについて考えました。前任の西井(孝明)さんとの議論を経て、食と健康の課題解決を目指す志を持ち、熱意を持って実力を磨き続けること、つまり「志×熱×磨」を受け継ぎ、成長を加速させていくこと改めて決意したのですが、その底流に流れるものはやっぱり幸せなんじゃないかな、と。

就任の挨拶などでは、「味の素」とかけて「幸せの素」という表現をしました。この幸せの素を好循環させていくのが大事だと考えています。これまで積極的に言葉にしてこなかった「幸せ」や「ウェルビーイング」ですが、この数年で潮目を迎えてはいます。

例えば、昨年の役員研修で検討チームを組成し、「2050年にウェルビーイングのリーディングカンパニーになる」という目標をつくると同時に、当社としての定義を決めました。また、サステナビリティ諮問会議のメンバーとして入っていただいているウェルビーイングの第一人者、石川善樹さんとの対話も重ねています。

藤田:ヘルスとウェルビーイングの違いについて、言葉の定義に関して言うと、ヘルスは健康、ウェルビーイングは美味しさと健康の両方が含まれていると思います。

ただ、美味しさは、味の素でいうと塩分であり、スイーツメーカーでいうと糖分や脂肪で、健康とは対極のものでもある。この両立について、藤江さんはどうお考えですか?

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藤江:当社は、健康課題へのアプローチとして「妥協なき栄養」を掲げています。その中では、おいしさも妥協しない。そこでカギとなるのが、サイエンスです。

例えば、一般的には塩分を減らすとおいしくなくなると言われますが、当社では塩分を30%減らしても同じおいしさを感じられるようなアプリケーション開発しています。

藤田:健康というと、血糖値が下がるとか、血圧が上がらないとか、どうしても計測できるものに目がいきがちです。一方で、美味しさは情緒的で測れないとされてきましたが、例えば最近では、仲間と食事をするとリラックスする、リラックスすると自律神経の働きにより心拍数が減るなど、数値化できるものも出てきました。

ヘルスという概念では測りづらかったものが、ウェルビーイングという尺度では測ることができる。これにより、新たな価値が生まれていくと思っています。
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編集=鈴木奈央 写真=小田駿一

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