藤江:そういう無形のものを数値化したり見える化したりするのは、大事なことですよね。当社は、そこにもサイエンスを活用して、例えば、“味の見える化”として「AJI-PMap」や「AJI-EMap」というものを作っています。
「AJI-PMap」のPはPreferenceのPで、味の特徴とおいしさを数値化してマップにするもの。一方でEはEmotionのE。心理的な要素、つまり製品のどのような印象が購買意欲を高めるかを数値化してマップにするもので、専門の研究員をつけながら深掘りしています。
GDPや健康寿命に代表される“客観的なウェルビーイング”ではなく、個々人の感情など、“主観的なウェルビーイング”の見える化、数値化に当社も積極的に関わっていきたい。
味の素新社長の藤江太郎
当社では、2030年までに「10億人の健康寿命の延伸」というアウトカムを定めていますが、それを実現するためには、体はもちろん、心の健康も大切で、それはウェルビーイングに直結します。
私自身、子供の頃から料理をするのが好きなのですが、それは料理という行為そのものだけでなく、家族や友人が食べて、喜んでくれることに幸せを感じていたからだと思うんですね。
これに関しては、サステナビリティ諮問会議の石川さんも「料理をすると幸せ度が高まる」と言われていて、そこに着目した企画を進行しています。当社の名古屋地区の若手が中心になって考え、全国に広まりつつある「ペアクック」という企画で、親子や友人、同僚と一緒に料理をし、さらに共食するというものです。
藤田:コロナ禍では、親子でホットケーキをつくる家族が増えてホットケーキミックスが一時品薄となったことが話題になりました。精神医学の視点でも、一緒に料理をすると家族関係が改善すると言われていますが、これも「ウェルビーイング的価値」だと思います。
藤江:単に製品を売るだけで終わらない、トータルの提案は増えていますよね。当社ではほかに、野菜摂取を促す「ラブベジ」という取り組みをしていて、野菜の魅力を学ぶ勉強会を開いたり、サイトやリーフレットを作ったりしています。
九州では、アミノ酸を生産している自社工場の副産物を畑の水肥とし、そこでできた野菜と「Cook Do」などを使って、料理をつくる「九州力作野菜」という企画もあります。これがいいのは、お客さんから好評なのに加え、流通関係者、行政を巻き込むことができていること。
コト消費が増えると、関わる人や機関が増え、志を共にする方々とエコシステムをつくることができる。自分自身もそういう取り組みの方がワクワクします。
また、料理に関して言えば、調理方法を知っている、料理ができるというのは、生活コストを抑えて生き抜いていけることでもある。食と健康の課題解決の中では、貧困問題へのアプローチとしても、子どもの頃から料理を学び、身に付けられるような機会を提供することは、体と心、両面の健康のために重要だと思います。