ビジネス

2022.07.25 16:00

個人の熱狂と自然体が生み出す「オルタナティブ起業家」の多様な価値創造


余談ですが、「ストックを減らさない」という発想は、ウェルビーイングの考え方に似ていますね。ウェルビーイングの状態を保つためには、まず自分自身の生存欲求を満たしたうえで他者とかかわることが大切です。主語はあくまでも自分たちであって、他者のニーズではありません。

成瀬:「ストックを減らさない」という考え方には共感しました。ON THE TRIPで地域の魅力を地域の人たちと一緒に見つける作業は、その地域にある文化資本や自然資本、そして現地で築いた信頼資本の活用とも言えます。誰も無理をすることなく、みんなで楽しみながらプロダクトをつくり上げるからこそ、多くの人に愛されるものが生まれるのだと思います。

古市:ステークホルダーと多様な関係を築くスタイルは「マルチステークホルダー主義」と呼ばれ、最近注目されています。皆さんの事業には関係する人との付き合い方にも特徴があるのではないでしょうか。

成瀬:僕らはキャンピングカーで日本各地を移動して仕事をしています。オーディオガイドをつくるにはその地域の面白い物語を知っている人を探す必要があるのですが、キャンピングカーを止めると自然と人が集まってくるので面白いです。また僕たちは、音楽バンドのような感じで、プロジェクトごとに適したチームが集まります。そのなかに地元のライターの方が参加することもある。そうやって各地に仲間が増えるのも面白い。

僕は温泉が好きなので、ミーティングが温泉ということもよくある(笑)。そこで話すと知り合った人とは意気投合して仕事に発展することは多いです。

藤代:ON THE TRIPさんは、まるで中米の「Horse Caravan」のようですね。彼らは馬とともに集団で旅をしながら、立ち寄る村々で踊ったり仕事を手伝ったりして、その場所を栄えさせる機能をもつそうです。

ステークホルダーとのかかわり方については、Nestoの周りにはホストとメンバー、株主、チームの4種類のステークホルダーが存在しています。しかし、最近はそれぞれの役割を兼ねる人が増えてきました。例えばホストのなかには、ほかの「リズム」にメンバーとして参加している人もいれば、当社の株主になっている人もいます。

将来的には、Nestoにかかわるすべての人に当社の株をもてるような「コミュニティエグジット」の状態を目指したいですね。それが実現すれば株式会社としての側面は薄れ、Nestoは意志をもつ人たちの共同体になる。ここに1万人がサステナブルにかかわれる状態をつくれたら理想だと思います。
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文=一本麻衣 写真=若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN No.097 2022年9月号(2022/7/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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