成瀬勇輝(以下、成瀬):僕らは、世界中を旅するなかで日本の魅力に気づき、日本の美意識や風景を多くの人に伝えたいという思いからON THE TRIPを起業しました。まちの歴史や土地がもつ物語を取材し、その地を訪れる人々がまるで映画を観るように文化を味わえるスマホ用の多言語オーディオガイドを制作しています。
また、日本の文化財の入館料が安すぎるがゆえに設備投資ができず、文化を伝えきれていないという問題意識から、社寺や芸術祭、美術館と連携し、オーディオガイドを無料で制作し、入館料をシェアしていくプロダクトも提供しています。
プロダクトをつくる際に最も大切にしているのは、「顧客と企業」ではなく「同じ目標に向かう仲間」として、地域の人たちと一緒に地域の魅力に目覚めていくプロセスです。その過程を心から楽しむことは、面白いプロダクトをつくるために何より重要だと考えています。
多様な「ストック」を減らさず豊かに
古市:3社とも、個人的な興味関心が最大の原動力ですね。提供価値は三者三様ですが、どのような考えと仕組みで実現しているのですか。
野々宮秀樹(以下、野々宮):資本主義社会では「金融資本こそが価値創造の源泉」だとみなされてきましたが、私たちはお金も含めた自然資本や信頼資本、文化資本といった、多様な「資本」を育てることで価値を生み出したいと考えています。
事業運営上で意識しているのは、「一時的にフローが大量発生する状態」ではなく「ストック(=資本)が減らない状態」こそが、本当に豊かな状態であるということ。もし、自然破壊をしながら肉を大量生産すれば、自然資本というストックが損なわれ、フローである肉はいずれ産出できなくなってしまいます。自然生態系というストックを守りながら、抑制的にフローとしての肉を生み出せば、持続可能性が生まれます。
半田:自然資本は金融資本と違い、フローを生み出すまでの事業スパンが非常に長い。土から牧草を育て、牛を育て、それを肉にするまでに最低でも5年はかかりますから、長期で取り組む覚悟が必要ですね。
藤代:信頼資本という言葉が出ましたが、私も人間関係は重要な資本だと認識しています。Nestoの初期ホストを集める際、私の系譜を知っている友人に声をかけたのですが、多くが共感して参加を決めてくれました。それは人間関係を大事なソーシャルキャピタル(社会関係資本)とみなして再投資を続けてきたからだと思います。