前回の授賞式はコロナ禍で延期となり、10月にアントワープで行われた。今年は初夏に日程を戻し、7月18日、世界中から約1000人が参加し、ロンドンのオールド・ビリングスゲート・マーケットで開催された。実は、もともとはモスクワで開催される予定だったが、ウクライナ侵攻を受けて、本部のあるロンドンに変更された。なお、今回ロシアのレストランはリストから除外された。
冒頭の二人の女性は、飲食の世界に革新を起こす活動をしている人を表彰する「チャンピオン・オブ・チェンジ」賞を受賞したウクライナ人料理ジャーナリストのオリア・ハーキュリーズ氏と、ロシア人のレストラン経営者、アレッサ・ティモシカーナ氏。
学生時代からの友人である二人は、ウクライナ侵攻を受けて、難民支援のためのNPO法人「Cook For Ukraine」を立ち上げ、レストランイベントを行うなどして募金を集め、4月末までに90万ポンドをユニセフに送っている。
トロフィーを二人で大切に持つハーキュリーズ氏(右端)とティモシカーナ氏
今回、日本のレストランは、アジア圏では最高位の20位に傳、30位にフロリレージュ、41位にラシーム、45位にNARISAWAがランクイン。50〜100位のランキングには59位に茶禅華が、82位にセザンが入った。
日本評議委員長の中村孝則氏は、「このランキングは、旅して食べるのが基本だが、今回の投票対象期間は完全にコロナ禍中。国境を長く閉じていた国には不利な面がある。そんななかで新しくランクインした店が多いのには注目したい。これは、フーディーたちが、より自国の地方を開拓した結果と言えるだろう。このランキングらしい、新たな発見を多く提供できるリストになったのではないか」と解説。
アジアNo.1に輝いた傳の長谷川在佑氏は、「早く日本にも海外からのお客様が来れるように祈っています。自分たちのできることを精一杯がんばっていきます」と語った。
1位は、デンマーク・コペンハーゲンのレストラン「ゼラニウム」。去年1位の「ノマ」同様、従業員が働きやすい環境を作っていることで知られている。例えばゼラニウムは、2007年の創立当初から週4日のみ営業。これは、長すぎる労働時間で、家族と過ごす時間や自分自身の時間がなくなると、長い目で見て良いレストランを作れない、という考えからだ。
オーナーシェフのラスムス・コフォード氏は、ミシュラン三ツ星の他、ボキューズドールで金賞を受賞するなど、シェフとして誰もが憧れる栄光の数々も手にしているが、子育てにも積極的に関わる。妻は弁護士として働いているため、コフォードシェフが毎朝子供たちを学校に送り、ランチサービスの後に迎えに行く。シェフだから特別待遇というわけではなく、スタッフの誰もがそれを当たり前に行っている。
筆者が訪れた日も、学校が夏休みに入っていたため、ディナー営業中は、事務所で子供を遊ばせていた。共同経営者のソレン・レデット氏は、「ゼラニウムでは、15カ国から約40人が働いているが、チームは一つの大きな家族のようなもの」と語る。