レデット氏の妻、マリアさんはペストリーシェフとして厨房で働いており、夫婦で仕事と家庭を両立しているが、それぞれの手の届かない部分は他のスタッフが自然にカバーをする。子供たちは頻繁に厨房に遊びにくるため、チーム全体が一つの大きな家族のようになっていくのだという。
ゼラニウムでは、今年1月に肉の提供を一切やめて野菜とシーフードを主役にした料理にスタイルを変更。「伝統的なデンマークの食事は肉を食べ過ぎ、地球の環境にも人の健康にも良くない」という考えからだ。何事も、無理すると長続きしない。完璧を極めた料理の背景には、体と心の健康を大切にするベースがあるから、長くその質を保つことができるのだ。
女性飲食関係者のより良いキャリア形成のために生み出された「フィメール・アドバイザリー・ボード」では、世界と地元ロンドンの女性飲食関係者20人が集まって、互いの経験を共有した。
世界No.1シェフにも選ばれたマッシモ・ボットゥーラシェフが手がけるホテル「Casa Maria Luigia」のジェシカ・ロスバルヘッドシェフは、難民の女性に職業訓練をして、それぞれの郷土の味を披露してもらうレストランを開店したことを話した。日本から参加した「été」の庄司夏子シェフは、将来的に、女性の料理人が子供を産んでも働き続けられるよう、託児所つきのスイーツショップを作りたいと語った。
Casa Maria Luigiaのチーム。左から、ロスバル氏、ボットゥーラ氏、ボットゥーラ氏の妻、ギルモア氏
今年のアワード関連イベントでは、興味深い傾向が感じられた。通常は、明るく元気になる、楽しい気持ちになることが求められるファインダイニングシーンにおいて、負の感情も含めた「感情を揺さぶる」ものが注目された点だ。
例えば、トークイベント50Best Talksで紹介されたデンマークの「アルケミスト」は、食を通した社会への問題提起が注目されている。彼らが提供する眼球を模した一皿は、ジョージ・オーウェル氏の小説「1984年」をモチーフにしたもので、SNSを通じて個人情報が収集されるなど、常に「見られている」現代社会に対する警告の意味を込めたという。
もう一つ感じられたのは「良い食」の一般化だ。例えば、前回の43位から33位とランクアップしたNYのモダン韓国料理の「アトミックス」は、韓国の寺で食べられている精進料理のアイデアを取り入れたより親しみやすい価格帯の新店「Naro」を9月にオープンする予定だという。
また、ペルーで「マイド」を経営する津村光晴シェフは、ファインダイニングで使用されるようになった原種の根菜を、一般の食卓にも取り戻すべく動いている。アンデスの高地で栽培される原種のじゃがいもは、改良品種の普及により減少し、休耕地が増える一方だったが、シェフはそれらを首都リマのスーパーマーケット30店で販売することで、農家の収入や休耕地の削減につなげる考えで、8月には最初の20トンが出荷予定だ。