中道:モノを大量に作って安く売るという勝負でなく、付加価値をつけて別の角度から切り開いていくビジネスは、当時の農業ではかなり珍しかったのではないですか。
朝霧:そうですね。今はそういうスタイルや方法論を、農林水産省では六次産業化として提唱しています。生産者側がそれぞれの産業を取り込んでいき、一次産業×二次産業×三次産業で六次産業だと。ただ、その品質が現代の日本人や同レベルの生活水準にある他国の方々に喜んでいただけなければ、ただの自己満足になってしまいます。
振り返ると、当時の協同商事にサステナビリティやサービスの視点は、若干抜けていたと思います。当時は「クラフトビール」という新しいキーワードで、まず技術力や職人道を必要なものとして考え、そこにブランドやデザインを重ねていくことによって、今の「COEDO」に繋げていきました。
おそらく海外のワイナリーも、ブドウ作り(栽培)のプロであると同時に、それを上回るほどに醸造を本業だと考えているのではないでしょうか。
中道:インスピレーションを日本国内だけに限定していては、そういった海外の当たり前の話にも気づきませんよね。朝霧さんはかつてバックパッカーであり、その後の仕事も含めて自分から一歩踏み出すことで現場を目の当たりにし、足し算や掛け算を考えてきたと思います。
日本人には、もっと外に出た方がいいと言いたいですね。その点に非常に大きな危機感を抱いていて、日本はある程度の国土も人口も経済規模もあるけれど、そこが一番問題なんだと、話を聞いていて思ってしまいました。
朝霧:そうですね。国内で完結しない方がよさそうです。
中道:ワインの考え方で麦をビールに応用したように、形を変えることで、日本の農業は国外に出ていきやすいかもしれません。
協同商事では最近、オーガニック野菜や果物専門の八百屋である「ORGANIC&CO.」(オーガニックアンドコー)というプロジェクトもはじめられています。以前から考えていたことなのでしょうか。
朝霧:そうですね。協同商事の母体は農業であり、私自身も街中ではなく農村で生まれ育っていることから、そういった原風景が身近にあったので。ただ、当社として長らく重要視してきた有機農業は、言葉としては日本でも広く認知されている一方、いまだに普及率としては認証を受けた圃場は0.2%に過ぎないという状況があります。
中道:そうなんですか?
朝霧:より歴史が浅いクラフトビールの普及率は1%を超え、有機農業よりも流通ボリュームが大きくなっています。私自身そこに疑問符があり、もう一度オーガニックと向き合って再評価することで、より知っていただけるのではないかと考えています。
日本でオーガニックの農業やプロダクトが受け入れられていない理由の一つに、価格の問題があります。しかし、有機農産物について業界で長らく使われてきた、「安心で安全で美味しい」という表現の問題もあるのではないでしょうか。
もちろん、有機農産物はそうあるべきですが、その言葉を確立するためには、「不安で危険でまずい」という反対のものがなければ成立しないはず。なので、オーガニックは「安心で安全で美味しい」という要素は含んでいるものの、本当の良さは、「地球貢献や社会貢献」ではないかと考えました。