ビジネス

2022.07.11 20:00

COEDOビールを手がける協同商事が「八百屋」を始めたワケ


中道:今は1店舗だけですか。

朝霧:埼玉県の大宮にある1店舗だけで、ようやくオープンから半年が経ったほどです。私たちは小売業になじみがなく、試行錯誤しています。

中道:実は、我々Kitchen & Companyでは緑茶のブランドを作っていて、そろそろ発表できそうです。

緑茶は基本的に日本のお茶ですが、世界で消費されている9割は中国産になります。それに、日本の緑茶の摂取量もペットボトルの緑茶への移行もあり、どんどん減少傾向にあります。そして、ペットボトルの緑茶は茶葉の作り方から何まですべて異なるため、結果的に安く大量生産をせざるをえません。

緑茶農家は高齢者が多く、「子や孫には継いで欲しくない」と聞きますが、それでは何百年と続いている日本の文化がなくなってしまいます。一方で、海外では日本の緑茶が望まれている。私たちはその間を繋ぎたく、できればオーガニックでやろうと考えるのですが、実現できるところが少ないんですよね。

朝霧:そうなんですよ。

中道:オーガニックの認証を取るためにはさまざまな基準があり、今の日本はそこに当てはまらないことばかりになっています。しかし、それらに意識が向いているかと言えば、基準自体を知らないという状態。だからこそ、プロセスを明かしていかなければいけない。本来、オーガニックはそんなに難しいことではないはずです。



朝霧:そうなんですよね。中道さんも言われたように日本の農家はすごいスピードでなくなっていて、これからもそれは続きそうです。協同商事は農家の手伝いをするべく全国の農家とリレーションを作ってきましたが、話を聞いているとその方たちの中でも半分ほどしか後継者がいません。

そうなると、我々の役割も時代とともに変わり、見直さなければいけないと感じます。とはいえ、私たちの考え方は「三方よし」で、農業の担い手になるとしても、他の農家の機会を奪うことにはしたくないという思いもあります。では、どうしようかと長年考えた結果、思いついたのが麦でした。

日本のビールの原料はほとんど海外から輸入して、私たちもある程度の規模になったこともあり、多くの麦芽を輸入しています。しかし、私たちの拠点は埼玉であり、そこで農業に向き合おうとするなら、地域の耕作放棄地を使って自分たちで有機栽培の大麦を育て、ビールとして届けられたら。日本国内の農家は大麦を作っていないので、影響を受けることもほとんどありません。

「麦秋」という季語があるように、5月頃の麦畑は秋のように黄金色に輝きます。そんな麦畑を抜け、その先にブルワリーがあれば、企業ブランディングにはもちろん、地域の景観、農業にも貢献でき、世界情勢で麦の輸入が左右されることへのリスクヘッジにもなります。

そんな考えで、今も農業現場で汗水たらして頑張っています。日に焼けているのも、農業やけです。それに自分でやってみると、アグリテックの余地は大きいと感じさせられます。埼玉は平坦な農地が多く、トラクターの自動運転は比較的容易で、ドローンで様子を見ることもできます。農業の分野も楽しいなと実感しながら、畑を耕しています。

中道:なるほど。ビールにとどまらず、協同商事が日本の新しい農業の可能性をどう切り開いていくのか、今後も楽しみにしています。

文=小谷紘友 編集=鈴木奈央

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