以前から、山の恵みを自信を持って出したいと思っていたが、レヴォであれば、それが叶う。また、流行に流されやすいフランス料理という型にはまらず、地に足を根ざしてやっていきたいと思ったことも、移転の理由のひとつだった。
「お客様が山を抜けてここへ来るまでの移動時間も含めて、この環境の中で食べさせることで、自分の料理により説得力が生まれると思いました」
山菜など地元の食材に関しては、採取場所はじめ、何から何まで、村の人たちに教わったのだという。
「私としては鮮度がいい状態でお客様に食べさせられるのが何より嬉しくて、村のお母さんたちが、採れてすぐの山菜を塩漬けにしているのをもったいないなあと思っていました。ところが、初年度の冬、雪に閉じ込められて3日くらい買い物に行けないときがあり、そのとき初めて、雪の恐ろしさを知ると同時に、あれは生活の知恵だったということに気づきました」
干した山菜を塩漬けにして、それを炊くなど、なんとも滋味深いそうだ。今では、そうした保存食から派生した料理も出している。
初年度の春には、穴場と教えられた場所の山菜をとり尽くしてしまい、痛い経験もした。「翌年、いさんで出かけたら、まったく生えてなかったんです。残しながら採らなきゃいけないという教えを守らなかった罰ですね。自分たちは山の恵みを分けてもらっているということを常に、認識しないといけない。そういう山のおきてを一つずつ覚えている毎日です」
山の恵みは、ちゃんと向き合えば、持続可能な食材だ。今、谷口氏は、それを子供や未来の人たちへ残すことが一番大切な自分の役割だと考えている。料理を通して、お客様にもそれを伝えている。
実は、レヴォには水道がきていない。20mほど山を上ったあたりから、湧き水を引き、レストランとコテージで使っている。湧き水には、素材の旨味が素直に溶け込みやすい性質があるのか、出汁が出やすいそうだ。また、標高の高さ(700m)も食材に影響があるという。
「富山湾はホタルイカが名物で、旬の時期には生で買って料理に使うのですが、前店のときよりもここのほうが長く生きるんですよ。あくまで仮説ですが、もともと深海にいる生物だから、標高が高く気圧が低いほうがストレスがかからないのでは、と思っています」と笑う。
自然の神秘と日々向き合い、畏敬の念を深めることは、人間としての深み、あるいは料理人として食材に向き合う姿勢にあらわれるのだろう。