──日本ではアグリテック、フードテック分野への投資額は、世界のトップ20にも入っておらず、他国に比べて少ないのが現状です。
そうですね。その要因は2つあると思っています。
1点目は、食料自給への課題意識の低さです。今回のパンデミックは、特にシンガポールのような、生鮮食料品の輸入に依存している国々に大きな衝撃を与えました。サプライチェーンが寸断されるような事態が発生すれば、その国々はたちまち破綻してしまうからです。その点日本では、輸入食品の依存度が比較的高いものの、シンガポールほどの緊急性を感じなかったのではないでしょうか。
2点目は、日本国内でのスタートアップの立ち位置です。アメリカのように新しいスタートアップに投資をするという文化は、日本にはまだまだまだ根付いていません。
しかし今、数多くの日本企業がESG経営を行う中で、環境面や社会面での影響を気にしながらビジネスの効率化を図るにはどうしたよいかを真剣に考えています。また、消費者、特にニュージェネレーションの人たちが、より環境に優しいものや社会に優しいものを望むようになってきています。
──フードテック、アグリテックの中でも、特に注目のテーマはありますか。
AgFunderでは、取り組む課題の規模が大きいスタートアップに投資をしていく予定です。そういった意味で関心のあるテーマは4つ。まずは「ロボティクスとオートメーション」「機能性食品・新規素材」「プラットフォームソリューション・サプライチェーンマネジメント」です。
農業従事者が減少する中、効率性を追求して労働の質を改善・向上していくためには、可能な限り多くのプロセスを自動化することが重要だからです。
さらに、「天然由来の機能性食材」といったテーマにも注目をしています。「薬としての食品」ですね。
高齢化が進むと、人々はより健康で長生きをしたいと望むようになります。病気になったり、歳を取ってうまく身体が機能しなくなったりしたときに、医薬品に頼るのではなく、自然界で採れた食品から医薬成分を抽出したものを摂取したいと願う人が増えるはずです。これは、対象者の数が多いトピックです。
──AgFunderが実際に投資をしているのはどのような企業でしょうか。
我々は、農産物のバリューチェーンにおいて様々なソリューションを提供する、5つの投資案件にコミットしました。
最初の投資案件は、Yeapという食品・飲料加工の副産物である酵母を使用して、機能性タンパク質パウダーを開発したシード段階の企業です。世界の食糧システムにおいてサプライチェーン・ショックが発生する中、より多くの人々に効率よく持続可能な栄養源を提供する方法として重要視されている事業です。
もうひとつが、Mycotech Labで、代替材料分野の企業です。同社が、菌類の根株である菌糸を利用して製造する高機能かつ持続可能なレザー調バイオファブリックは、従来の動物の皮革製造業と比較して、水とエネルギーの使用量を大幅に節約し、汚染が少なく、二酸化炭素排出量も劇的に削減することができています。
欧米では、この分野の新興企業が早い段階で成功しているので、同社には大きな成長機会があると考えています。