Voicy緒方憲太郎の偏愛漫画『沈黙の艦隊』|社長の偏愛漫画 #2


栗俣:ベネットと海江田の最後の目的は一緒なんですよね。

緒方:ポジションが違うだけで、同じ話をしているんですよね。漫画としてのレベルがダントツに高いことが、ここからもわかると思います。世の中に、価値の差分を生んでいる。そこをリスペクトしています。

『ドラえもん』や『鉄腕アトム』は、ロボットに対する視点を変えました。『DEATH NOTE』もそうですよね。あれがあったおかげで視界が変わった部分があります。その漫画が登場したことで、社会がちょっと変わる──そういう漫画はマスターピース(傑作)だと思います。

栗俣:『沈黙の艦隊』を読んで、その後のご自身の生き方や人格形成にどんな影響がありました?

緒方:高校生のときにこの作品に出合ったおかげで、軍事の縮小、核の縮小にちゃんと興味をもつようになりました。社会問題を解決するには、政治や経済などいろいろな人たちがかかわらなければいけない。社会って大変なんだな、これからそういう社会に向かっていくんだな、と思えた。

自分のキャリアだけを考えて、いい生活をするだけが人生じゃない。社会の一員になるなら何をしよう──そう感じることができたんです。

この作品を読むと、日本のことがめちゃくちゃ好きになります。世界情勢にも興味が沸いてきます。『沈黙の艦隊』を読んで、僕は日本をよくしたいと思ったし、日本や世界をよくしたいと思っていいんだと思えた。これだけ本気でよくしようと思っている人たちばかりを見ると、感化されますよ。

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緒方が2016年に立ち上げたVoicy。2021年の年間利用者数は1300万人を突破。

栗俣:たしかにこの作品は、全員、自分ごとになるんですよね。

緒方:そうなんです。人間の汚い部分ばかり見せたり、性を出したりしなくても、社会には面白いことがたくさんある。人にもいろいろな魅力があります。その魅力を組み合わせたら、世界を変えられる。メディアで突っ切ってきたヤツ、政治で突っ切ってきたヤツ、軍事で突っ切ってきたヤツ……そういう連中がどんどん参加して、社会を変えていくムーブメントになる。それって面白いじゃないですか。

僕はいろいろなものに興味があり、いろいろな仕事に就きたかった。初めに公認会計士の資格を取ったのは、いろいろな会社が見られるからです。特定の業界で働きたいのではなく、全部やりたいわけですよ。それを仮想で楽しめるのが、漫画のよさですね。

29歳のとき、僕は公認会計士の仕事を辞め、1年かけて海外35カ国くらいを放浪しました。アメリカでは、現在最前線で活躍する日本人ともたくさん出合いました。当時ニューヨークのUBSで働いていた前田裕二君(現・SHOWROOM代表取締役社長)と仲良くなりました。ボストンでは、ハーバード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)で学ぶ日本人と会いました。石川善樹君(ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程修了。現・予防医学博士)や、北川拓也君(ハーバード大学院博士課程修了。現・楽天執行役員)がいました。

彼らと「せっかくだからNPOをつくろうよ」という話をしていたんです。いろいろな学校を回って「こうやって人生を考えても面白いんだよ」とか、「こんなことだってできるんだよ」と話をするNPOです。受験勉強もしたらいいけど、世界は広いんだよと。
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聞き手=栗俣力也 文=荒井香織

この記事は 「Forbes JAPAN No.095 2022年月7号(2022/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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