Voicy緒方憲太郎の偏愛漫画『沈黙の艦隊』|社長の偏愛漫画 #2

Voicy創業者の緒方憲太郎


栗俣:そもそもこのシーンは、海江田が主役のはずなのに、「やまと保険」の発案は海江田ではなく、一国会議員である大滝淳です。その発案に対して、海江田が「あなたの考えは我が体内に入った」と言う。これがあとに響いて『沈黙の艦隊』になっていく。ここに至るためのいろいろな人の物語、視点、会話、構想が、多方面から集中したシーンです。(※第152話「大滝の提案」)

緒方:そう、多方面からいく。初めは海江田がすべてのストーリーのカギを握っているかのように見えますが、もっといろいろな人を巻きこまないとうまくいかないと気づくのです。

ニューヨークの川を上り、彼が筋トレをやりながら「自分は役者にならなきゃいけない」と話し出すシーンがあります。それまでは、原子力潜水艦一隻があればなんとかなると主張している人に見えたのですが、このプロセスで、彼は自分が思っている以上に求められる場所にまで来ていて、それでいて周りの力も必要だと感じたのでしょう。しかし彼はそれを最後まで出さない。すべてのことを「わかっていた人」のフリをします。

各所に登場するトップの人たちは、社会を変えているつもりだけど、海江田という人間をもちょっとずつ変えている。海江田を、パワーアップさせているのだと思います。

栗俣:緒方さんは、大滝がすごく好きじゃないですか?

緒方:大滝は好きですよ。

栗俣:大滝が海江田含め全員に話すシーンがあって、世界各国の人の顔が見開きで描かれている。そこからいろいろな人たちが巻きこまれていくのですが、それが「◯◯国の人類」と言う海江田の感動のシーンにつながっていきます。大滝がやったようなことを、いま緒方さんはVoicyでやっているような気がします。

緒方:そうかもしれません。僕は全然、起業家気質じゃないんですよ。プロデューサー側なんです。世の中には魅力的な人がたくさんいます。その人たちの声を届けたい。

栗俣:大滝はいろいろな人たちに「こういうことが利益だよ」と、「やまと」の存在の利益を各方面にアイデアとして言いまくる存在です。今のVoicyの存在も、まさしくそれですよね。

緒方:大滝は仕組みとプラットフォームをつくろうとしていますが、僕も仕組みとプラットフォームをつくるのが好きです。自分がプレイヤー、主役となって何かをやるよりも、プラットフォームをつくってみんなを巻き込んだほうが変わる。これは、漫画の中ではあまり多くない志向だと思います。どうしても「主人公VS敵」の構図やラブコメ、もうちょっと刺激がほしい場合は不倫や暴力に走りがちですから(笑)。

「やまと保険」のシーンのもうひとつの見どころは、人間模様です。『沈黙の艦隊』の登場人物は、全員が違う思考をもっている。

なかでも秀逸なのは、アメリカ大統領のニコラス・J・ベネットです。彼は大統領でありながらイノベーター気質をもっていて、「やまと」艦長の海江田には絶対に負けないと思いながらも、ちょっと海江田のことが好きで憧れている。アメリカの代表という顔と、「社会を変えるのはお前じゃなくてオレなんだ」という個人の顔、そして海江田に「お前はどうするんだ。なんなら助けたい」という気持ちも垣間見える。ベネットは、脇役のなかでもとりわけ名キャラクターといえるのではないでしょうか。
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聞き手=栗俣力也 文=荒井香織

この記事は 「Forbes JAPAN No.095 2022年月7号(2022/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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