旅の概念が劇的に変化 いま「着地型観光」が人気のワケ

1200年以上前に朝廷に献上された歴史を持つ生産地でのお茶摘み体験


というのも、それまでの旅行会社は、いわゆる国内外の有名観光地などにお客様を「運ぶ業務」が主で、身近な地域にお客様を運ぶ、または送るという意識は薄く、地域の文化資源や歴史、伝統文化、食、自然環境体験は観光にはならないという考えが一般的だったのだ。つまり「旅」や「観光」とは移動してこそのものであり、そもそも地域住民が観光に協力するのも難しいという考えが大半を占めていた。

しかし、コロナ禍がその「旅」や「観光」の概念を劇的に変化させた。「移動」が自粛もしくは禁じられたなかで、「遠くに行かなくてもできる旅」や「体験としての観光」が求められるようになったのだ。それにより身近な地域のなかでも可能な観光体験が見直され、最近では、遠方や海外への旅行に対して、こういった観光は「域内観光」や「マイクロツーリズム」と呼ばれ、三密を避けながら近場で過ごす旅スタイルとして一般化しつつある。

それは、自宅からせいぜい1時間から2時間ほどの距離で、安心、安全に過ごしながら、地域の魅力を深く知るきっかけにもなり、地域経済にも貢献し、地域振興にもつながることになる。その他、保養目的で旅館やホテルに行き、温泉や自然散策や料理を楽しみ、活力を取り戻すWell-Beingな滞在旅行なども含まれる。

まさにコロナ禍がきっかけとなり、観光とは、遠くにあるものだけではなく、身近な人、コト、モノ、歴史、文化、伝統、食など、さまざまな日常の体験のなかにもあることにやっと人々が気づきはじめたのだ。

私は、およそ10年以上前から、「地域資源の観光資源化」という視点から、地域で体験できる観光コンテンツの開発や造成に取り組んで来た。特に岐阜県では全国に先駆けて、地域資源の観光資源化をシステム化し、それなりに成功に導いたという自負がある。

だからこそひょうご観光本部の観光プロデューサーにも任命していただいたのだが、そんな私でも3年かけて地域を丁寧にめぐり、地域資源を約100個、見つけ、磨き、観光資源化するという兵庫県の構想には、最初「とても無理」と反対したものだ。地域資源の観光資源化はそんなに簡単にできることではないからだ。
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文=古田菜穂子 写真提供=丹波篠山観光協会

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地域と観光が面白くなる新局面

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