「はやぶさ」は、2003年5月9日、いまはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の機関となっているISAS(宇宙科学研究所)によって打ち上げられました。
プロジェクトが発足した当初は、日本はアメリカと比較すると予算規模の面でも実績でも明らかに劣っていました。アメリカの技術を取り入れて後を追うという選択もありましたが、ISASは追従するだけでは次のステージに進めないと、独自のプロジェクトに挑戦します。
それが「はやぶさ」が完遂した「小惑星サンプルリターン」プロジェクトでした。「はやぶさ」が目指した小惑星「イトカワ」は、半径約160メートル、長径も540メートルほどしかない小さな天体。しかも地球から約3億キロメートルも離れた場所にありました(もっとも地球に接近したときの火星までの距離が約8000万キロメートル)。
「はやぶさ」は無人探査機として、そのように遠い場所にある小さな星からサンプルを回収し、持ち帰る使命を託されたのです。アメリカでさえ手掛けるのを躊躇するほどの壮大なミッションでした。
打ち上げられた「はやぶさ」は、2005年夏にイトカワに到着するまでは大きなトラブルなく順調に進みました。しかしサンプル採取を行った後、大きなピンチが襲います。燃料漏れにより姿勢が制御できなくなり、電力も無くなり、通信も遮断。そして2005年12月には完全に消息を絶ってしまいました。しかし、粘り強く地球から指令信号を送り続けた結果、約7週間後、奇跡的に交信が復活します。
また、地球へ帰還している最中にも、搭載されていたエンジンがすべて停止するというトラブルもありましたが、奇跡的なファインプレーによりエンジンは起動を再開します。エンジン開発チームがひょっとしたら役立つかもしれないと開発の最後の最後に加えていた回路が役立ったのです。
こうした数々の危機を乗り越えながらも、「はやぶさ」は採取したサンプルを収めたカプセルを切り離し、自らは最後、大気圏のなかで燃え尽きます。満身創痍の状態でありながらも、ミッションを果たし、最後ははかなく散るというドラマは、多くの人々の心を掴みました。
いま「はやぶさ」の後継機である「はやぶさ2」が、小惑星「リュウグウ」から持ち帰った石からアミノ酸が発見されて話題となっています。地球の生命の源が宇宙から来たという説を後押しする快挙でしたが、その先達として「はやぶさ」とプロジェクトチームが乗り越えた幾多の試練があったのです。
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