──幼少期から「配慮されない」ことに慣れているからこそ、戸惑ってしまうのかもしれませんね。
松岡:そうですね。今の社会が生きづらいというのがわかっていても、いきなりは変えられないとなれば、うまく周りに合わせて生きていくしかないですもんね。それは当事者が生き延びる戦略としては正しいと思います。ただ、私は次の世代も含めて、多くの人の生きづらさをなくすために何ができるかを考えていきたいなと思っています。
そもそも周囲の人の理解を得ることは、とても手間のかかることです。家族や学校などは、ある種の「逃れにくさ」があると思いますが、職場の場合は「転職」という選択肢が存在します。それも、一般的にはスキルが高ければ高いほど、転職できる傾向にあります。
そこには当事者間の格差などの問題も関係してくるのですが、ただ、スキルにかかわらず、職場の環境的に「生きづらいから」という理由で転職を余儀なくされる人は多い。そういったことが続けば、その企業は同質な人だけが残りどんどん視野が狭くなっていくのではないでしょうか。だからこそ、企業は「ダイバーシティ&インクルージョン」を推進する必要があると思います。
サリー:ジェンダーに限らず、気づいたら同じような人しか残ってない、といったことには、なってほしくない。LGBTQ+が働きやすい環境を整えることは、あらゆる人が働きやすい環境をつくることにもつながりますよね。
松岡:そうですね。例えば学校の事例ですが、女性の制服を「スカート」一択から、スカートとスラックスを自由に選べるようにした、という事例。これは、トランスジェンダーへの配慮という名目ですが、実際には「寒いから」といった理由など、そもそもスカートを履きたくないというシスジェンダー(生まれた時に割り当てられた性別と性自認が一致する人)の女性のニーズにも応えることができています。
ダイバーシティは「投資」価値あり
──企業規模によっても事情は変わりますか。
松岡:2020年3月に厚労省が発表した調査(「職場におけるダイバーシティ推進事業(労働者アンケート調査)」)で、大企業の約4割が性的マイノリティ関連施策を実施しているというデータがあります。ただ、中小企業も合わせると約1割まで落ち込みます。
サリー:大企業のようにSDGsやESGといった国際社会の大きな文脈に接続していないと取り組むメリットを享受できないのかな。そこに原因のひとつがあると感じます。
松岡:法整備などでガイドラインはできつつあり、この点は非常に重要だと思っているのですが、そうしたディフェンシブな側面だけでは企業の取り組みが広がっていかない部分もあるのかもしれません。
サリー:ネガティブを減らしていくことと、ポジティブをつくっていくことは、取り組みとしては異なる段階ですもんね。ポジティブなアクションは職場によって違うと思うので、私からは社会に向けて考え方を発信できればと思っています。
今回の調査では「うちは小さい企業なのでそんなことできない」といった声もありました。企業によって事情は違えども、ダイバーシティの実現に関する出資を“コスト”として捉えるのではなく、「インベストメント(投資)」としてとして捉えてほしい。
「あらゆる人にとってより良い環境をつくることが、優秀な人材を呼び込んだり、会社の可能性を引き出したりすることにつながるんだ」という考え方を、多くの企業に持っていただきたいですね。