ビジネス

2022.06.08

ヘラルボニー x 尾州ウール──異彩のかけあわせから生まれた「ウールシャツ」誕生秘話

三星生糸社長 岩田真吾(左)ヘラルボニー社長 松田崇弥(中央)ヘラルボニー取締役CCO 佐々木春樹(右)


アートの価値を生かすデザイン


岩田:ヘラルボニーとのコラボ前は、正直ちょっと怖いなと思ったんです。素材がいいからシンプルな服でも十分に成り立つ。アートに寄りすぎて着づらいものになったらどうしよう、と。ですが、ウールシャツはネクタイをしなくても、ジャケットを羽織ってもちょうどいい感じにアートのプリントが見える。絶妙なデザインだと思いました。

佐々木:ウールそのもののよさを引き立て、快適に着られるように仕上げました。ヘラルボニーでは、知的障がいのある作家さんのアートを使って商品化をしていますが、その裏には作家さんやそのご家族がいらっしゃいます。その背景まで深く理解し、ずっと着られて腐らないデザインを心がけています。アート自体は50年、100年と形の変わらないもの。季節ごとではなく、アート基準で1年ごとに新商品を手がけるようにしているのも特徴です。

松田:今回は佐々木早苗さんのアートを使っていますが、作家個人にファンができてほしいという願いがあり、商品よりも作家が前に出るような売り方を心がけています。そして商品ができたら作家に必ず届けるようにしています。アートライセンス契約をしている方は重度の知的障がいのある方が多く、お金の価値を深く理解することは難易度が高い。例えば100万円が手に入ったとしても本人は大好きなアイスクリームが食べたかったりする。だから出来上がったものを届けることが喜びやインセンティブにつながっています。

岩田:資本主義を超えた価値ですね。僕たちで言うと、生地屋って縁の下の力持ちなんです。だから、従来は完成品の服というのはちょっと離れたところにある。今回、袖に三星毛糸の自社ブランドのタグもつけていただき、職人やテキスタイルデザイナーなど作り手までリスペクトしていただき、とてもうれしかったです。


ヘラルボニーの年間キービジュアルに、女優の池田エライザを起用。コラボで生まれた尾州ウールのアートシャツを身にまとう。性別に関係なく着られるようにユニセックスのデザインも特徴だ。池田も「ツヤもあるけど着やすくて日常使いしたい」と絶賛。


シャツの袖には尾州ウールへのリスペクトを表す三星毛糸のブランドタグ付き。


胸元にはヘラルボニーのロゴ。愛知発の刺繍ワッペンを使用した。






知的障がいのある作家が描くアートの前で、コラボ服に袖を通した松田、佐々木、岩田(写真上から)。

産地の危機から生まれた「共創」


佐々木:もはや産地に行かなくとも、ワンクリックでさまざまな生地が手に入る時代です。しかし、産地には織機に手で糸をかけたりする職人さんがいる。持続可能な産業にしていくためには、当然のように1000円でデニムが売られているような状態ではいけないはずです。

アパレルは大企業と零細企業の二極化が進んでいて、産地の人たちは閉鎖的なところがあります。そんななか、ヘラルボニーが福祉の世界をブランディングしてきたように、岩田さんも尾州ウールの産地を盛り上げようと発信に力を入れて、新しい世界観を生み出していることは新鮮でしたし、共通点を感じます。
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文=督 あかり 写真=佐々木 康

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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