──世界中に顧客を持ち、動かす金額も大きなラグジュアリーブランドは、ファッショントレンドを発信するにとどまらない存在になっています。環境配慮、DEI、デジタルシフトなど、社会課題やメッセージを発信する媒介として、グッチは社会にどのような影響を及ぼせると考えていますか?
たしかに、企業が社会に対してもたらす影響力は、5年前、10年前よりはるかに大きくなっていますね。だからこそ企業は、「中立」ではなく、自分たちの立場を明確に意思表示しなくてはならなくなっています。
とりわけ、私たちのようなブランドは、顧客に感情的なつながりを感じてもらうことで高い価値を生み出すことができます。だからこそ、リーダーとして行動する責任があります。企業として何を重視しているのか、価値としているのか、立場を明確に表明していく責任があると考えています。
例えばアメリカであれば、銃規制やリプロダクティブライツといった社会的問題まで、企業としてどういうスタンスをとるのかということに対して声をあげていくことが大事になっています。
これは、先ほどの話と同じように、対顧客にとどまりません。自分が属している企業が立場や意見を代弁してくれるということは、グッチで働く人々にとっても大切なことです。
アーティストMP5による「CHIME FOR CHANGE」のロゴ。今年3月には取り組みの一環として東京タワーをライトアップした Courtesy of Gucci
具体的には、グッチでは2013年からジェンダー平等を支援する「CHIME FOR CHANGE」を実施しています。ダイバーシティとインクルージョンに関していえば、アレッサンドロ自身が哲学の中心に位置づけています。ジェンダーのみならず、あらゆる種類の多様性を包摂し、それらを加味していくことで、ビジネスにおいても、創造性、文化、成長を促進させることにつながるのです。
──この数年で、“ラグジュアリー”に関する考え方が急速に変化しています。ときに、限られた世界で享受される特権であり、文化的な階級を与えるものであったものが、近年は開かれた世界観のなかでの多様な価値を祝福するものになっています。このような変化をどのようにとらえていますか?
私も、これからよりインクルーシブな方向に進んでいくだろうと考えます。しかし、私は、ラグジュアリーはもっと感情に訴えるもので、卓越性や独自性、美しさといった、より詩的なクオリティに関係するものと考えたいのです。そしてグッチがもつ世界観に共感してくれる人たちとのコミュニティを形成していきたいと考えています。
今後のラグジュアリー業界において、コミュニティというコンセプトはますます重要になっていくでしょう。