日本に関しては、百貨店をはじめとする市場の特殊性を考慮して、独自の取り組みを尊重しています。製品においてもコミュニケーションにおいても、日本チームとミラノ本社はアイデアを共有し、どのようなニーズがあるのかなど、日本チームの声に耳を傾けています。現地チームを信頼し、現場の声から私たちも学んでいます。グッチが日本のアーチストとのコラボを成功させているのは、その一例といえるでしょう。
2021年に開催した京都清水寺でのエキシビション Courtesy of Gucci
──次にグッチのファッション観について伺います。近年、外向きに着飾るよりも内向きの心地よさが求められるようになり、コロナ禍によってその流れが加速しました。それでもなお、グッチが一貫して「ファッション」を押し出す意図を教えてください。
過去2年に人々がリラックスを好んだのは、外出の機会が限られたたなかで、選択の余地がなかったためだと思っています。グッチはその間も一貫して、前向きに楽しもうというポジティブなメッセージを発信し続けてきました。これはグッチが大切にするブランド価値に沿ったものです。
──メッセージは一貫していても、その表現は「新しい」というのがこれまでのファッションの魅力でした。でも今は、コレクションの数を絞るようなモード界の流れもあり、「新しさ」の魅力が弱くなりつつあります。そのなかで継続してファンを魅了し、新規顧客も獲得するために、重視している要素はありますか?
消費者のサステナビリティへの関心や需要が高まり、たしかに「新しさ」は打ち出しにくくなりました。どのように顧客の興味を惹きつけられるのかということに関しては、今は「新しさ」だけではないと思っています。むしろ、サステナビリティのほうに注力しています。とはいえ、本来、ラグジュアリー製品は長持ちして世代を超えて受け継がれることが多いので、サステナビリティはそこに組み込まれているのですが。
グッチは、2015年にサステナビリティに対する取り組み「Culture of Purpose」を始めました。温室効果ガス排出量、水の消費量、土地利用などの測定結果を、環境損益計算書(EP&L)として公表しています。またこの報告をサプライチェーン全体にまで拡大しました。
ファッションビジネスは地球に甚大な影響をおよぼしていることがわかっていますが、かといってやめてしまえば、産業自体が失われてしまいます。グッチでは、環境への負荷を削減するのと同時に、働く人を守るための取り組みを続けてきました。
サステナブルな素材を使用したGucci Off The Gridコレクション Courtesy of Gucci
その結果、2018年にはカーボンニュートラルを実現。2015年と比べ、2020年末時点で、環境フットプリントを47%削減しました。自社による削減努力をしても残る排出分については、世界中の自然を利用したソリューションへ投資することでオフセットしています。
カーボンニュートラルに関しては2050年をターゲットにした目標が多いですが、そのときには私は90歳です。そこまでは待てない。だから受け身ではなく、できることを積極的に進めています。
こうした取り組みは、顧客にとっての魅力になるだけでなく、従業員のエンゲージメントや採用にも繋がっています。サステナビリティへの取り組みをしているグッチで働くことに、特に若い世代の社員は誇りを感じているのです。価値は価値を生むのです。