イメージがしやすいものだと評価者もちゃんと具体的に話す。評価を聞く側もその具体的な説明に説得される。素人が飲食店を評価するグルメサイトが成立している、大きな理由です。
でも細分化がしにくい、概念的なことの評価は「アイツはすごい」「アイツはまあまあ」。これしか説明しようがない、と思っている。さすがに評価を聞く側はそれだけでは説得はされない。どうするか? その評価者の“評価自体”ではなく、“経歴”に説得性を探すのです。
「よく分からないけどまあ、あの人が言っているんだから間違いないだろう。プロ野球選手だったんだよね?」
メッセージ自体ではなく、メッセンジャーに説得されてしまう。メッセンジャーも「何となく、感覚で」と、自分の経験以外には何の根拠もなく思いこむ。たいていの場合、無意識に。
この、両者による軽率な判断停止、あるいは評価という行為の軽視。これを僕は、スカウティングの仕事に就くものとして悔しく思います。
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評価に正解はない
ヒト、モノ、コトをどう評価するか。これらはとても難しくて、絶対正しい解、みたいなものはありません。
野球のことをご存じの方ならよく分かるかもしれませんが、過去も現在も、選手の獲得に100%の成功を収めている球団はありません。残念ながら僕自身も、関わってきた球団も、それはもう、多くの見立て違いがありました。
では、どのスカウトも開き直って漫然と、成功と失敗を繰り返しているだけなのでしょうか。もちろん違います。“センス”みたいなものも多少あるかもしれませんが、やはり成功から学び、失敗から学び、次に活かしていくことが重要です。
これから僕がお話していくのは、そうやって、評価の一つ一つを同じ基準で振り返っていくための“仕組み作り”について。
僕が今いるホークスでは、『ホークススコア』という選手評価体制を、皆で話し合って作りました。選手獲得などの判断に活用されていますし、“誰が、どの選手に対して、どの時点で、どういう評価をしたか”を振り返って、次に活かしていくこともできるようになっています。
評価はとても難しい、という根本の事実に謙虚に向き合いながら、可能な限りの真理を明らかにしていく。例えると法律ではなく、憲法を作っていく。そんなイメージです。
より公正で、分かりやすく、開かれたかたちに“評価をデザイン”していく──。
次回(7月28日公開)以降、その方法に野球のスカウトの話も交えながら、具体的に迫っていきます。野球が好きな方にはもちろん、そうでない方にも読んでもらえれば嬉しいです。
>> 連載:メジャーリーグで学んだ「人を評価する方法」
嘉数 駿(かかず しゅん)◎1981年東京都生まれ。麻布高校卒、東京大学中退、ハーバード大学卒。2006年から日米プロ野球5球団でチーム編成に携わる。サンフランシスコ・ジャイアンツとボストン・レッドソックスでのスカウトとしての経験を活かし、現職(福岡ソフトバンクホークス GM補佐)では独自の選手レポート体制を設計。チーム編成の最重要要素である選手評価の品質管理を一業務として行う。