おカネがかかりそうだし、いつか買える日が来ることを夢見ておこう、という話ではない。一石二鳥となる社会課題解決のシェア型「アイデア物件」といえるものだ。これは「104コンソーシアム(104と書いて「とうし」と読む)」という20代による投資企画のプレゼンテーションで、Forbes賞を受賞したアイデアである。
住友林業の松本英樹(2018年入社、26歳)が考案したもので、企画タイトルは「若者によるデュアルライフ投資」。二拠点生活という意味だ。さっそく、その中身について松本の考えを聞いてみよう。
住友林業の松本英樹
「弊社の研究所で開発している国産の木材を使った『CLT combo』という家は、移設可能でいろんな場所で使えるのが強みです。CLTというのは新しい建材で、木の板を積み重ねて接着した厚みのある板です。木の組み合わせで強度が高い箱型の家をつくり、家はボックス型なので組み合わせると2階建てになります。2020年には実証実験を行いました。ただ、家を動かす需要はどこにあるのかという課題がありました」
ニーズがないのに動く家をつくったのか? そう尋ねると、発端は2018年に同社の有志が集まってスタートした「未来の家プロジェクト」という議論だったという。未来には住む場所を移り続けるライフスタイルが生まれるのではないかという仮説があった。実際、デュアルライフという言葉が言われ始めていたし、企業のサテライトオフィスと過疎地の地域活性化を掛け合わせようという試みが各地で起きたりしていた。ここに国産材の活用という課題も重なる。日本の森林は間伐がなされないまま放置されているケースが多く、土砂災害につながっている。また、新型コロナウイルスの影響によって世界的な木材価格の上昇が起こり、木材需要の約6割を輸入に頼る日本では「ウッドショック」と呼ばれる木材価格高騰、木材不足が発生している。国産材のさらなる活用が求められている状況だ。ここで松本が目をつけたものがある。
「家を動かす必要があるのはどういう時かを考えました。急に需要が生まれるのは地震などの災害時です。強度が強みであり、プレハブの家よりも住心地が良いCLT comboを防災の視点で活用できないかと思ったのです。コロナ禍でも、素早く隔離施設を建てる必要があります。東日本大震災やパンデミックなどを体験し、そうした予測できない事態に対応する仕組みができないかと考えました」
災害が起きると、人手不足と資材不足という問題が発生する。南海トラフ地震が起きた場合、東日本大震災の約16倍におよぶ84万4288戸の応急仮設住宅が必要となる試算がある。これを平時から備蓄するにはどうしたらよいか。その解決のアイデアが「若者によるデュアルライフ投資」という企画になった。下の図がその仕組だ。
遊休地がある地方自治体が、移動式住宅を併設した滞在型農園を整備する。これを若者が利用しやすい低料金で貸し出す。ここが若者にとっての「投資」の部分になる。投資によってデュアルライフを楽しみながらも、それが災害時には被災者の仮設住宅として役に立つ。災害などが起きた際は「退去すること」を条件として会員契約をする。つまり、「会費」という投資のリターンは、田舎暮らしというデュアルライフと災害時の社会貢献である。国産材を使うことによって、日本の森林の生態系をもとに戻すことにもつながるだろう。平時の地域活性化も期待できる。災害、森林、地域の過疎化という日本が抱えた大きな課題を「移動する」をキーワードに解決する一石三鳥の仕組みといっていい。