しかし2010年頃から、山本の店とはまったく関係のない「俺の」を店名に冠した飲食店が続々とオープンする。それもあり、「俺のハンバーグ山本」は2016年6月に全店舗を「山本のハンバーグ」に名称変更。いわば、自らが立ち上げて、育てた「俺の」ブランドを惜しげもなく捨てたのだ。
ついで山本は、2020年6月に新たな業態の「挽肉と米」の1号店を東京の吉祥寺でスタートさせる。「挽きたて 焼きたて 炊きたて」というシンプルなコンセプトで立ち上げた店だが、入店するための整理券を手に入れるため、毎朝、長蛇の行列ができる人気店となる。
また、今年1月には「山本のハンバーグ尾山台研究所」を立ち上げ、食物販向けの商品製造キッチンを併設。冷凍で商品を全国に販売する「中食EC」にも参入していくという。
昨年12月に放送されたテレビ情報番組「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)にも出演して話題を呼んだ山本に、「俺のハンバーグ山本」から「挽肉と米」に至る経緯、そして新たに参入しようとしている「中食EC」への展望について聞く。
後編:暗黙知は要らない、飲食ビジネスに汎用性を。「俺ハン」から行列店「挽肉と米」へ
「俺のハンバーグ山本」という店を出したのは23歳の時でした。常識的な「正しいハンバーグ」のつくり方とか、「こういうハンバーグが美味しい」という基本など気にすることなく、とにかく絶対「自分がいい」と思うもの、「自分が美味しい」と思うもので勝負しようと始めました。
そのことを自分自身で肝に銘じるためにも、「俺のハンバーグ山本」という店名をつけたのです。まさに自らの「初心」を託した名前だったのです。
ところが、そのうちまったく関係なく「俺の」を名乗る店が増えて、「俺の」を捨てるのにはもちろん寂しさや未練はありました。でも、「俺の」がついたお店が続々と開店した頃、僕たちの店に来たことがないお客様、また常連のお客様さえも「同じ系列で、手広く始めたんだな」と解釈されることが多くなりました。
でも実際は、他の「俺の」とは、供する料理のスタイルもビジネスのスタンスも違うので、お客様に誤解をさせるのは申し訳ないと思い、「山本のハンバーグ」に改名することにしたのです。
「俺の」を捨てるのには、もちろん寂しさや未練はありました。それは当然、「愛着ある名前を捨てる」ということでもあり、試練も伴いましたが、お客様にとっては、商品やサービスが変わらなければおそらく屋号はどうでもいいんです。それよりも、誤解を与えない方策を講じるのが先決だと思ったのです。
なぜハンバーグ単品なのか?
実は、「俺のハンバーグ山本」を始める際に、先輩たちからは「今のお前は素人だから単品の、何らかの専門店にするべき」というアドバイスを受けました 。「では何の専門?」と考えたときに、僕には、カテゴリー設定をして、こういうペルソナのカスタマーを呼ぼうといったマーケティング的な発想はまったくなかったのです。
とにかく「みんなに」「全員に」「誰でも」来て欲しいなと思いました。それで、そのためにはどういうメニューがいいのだろうかと考え、思い当たったのがハンバーグだったのです。