今回、「山本のハンバーグ尾山台研究所」を開設したのは、イーコマース(EC、ネット販売)用の中食(なかしょく)製品の開発を始めようと考えたからです。ネット販売するのはECを利用するお客様に喜んでいただけるような、お店で食事をする商品とは異なる商品で、今後は店内では提供できないくらい手の込んだソースなどの開発も考えています。
イートインのキッチンで無理やりつくるのは、量産対応に関してはオペレーションや衛生面での問題がある。それで、ちゃんとEC商品用のキッチンを「1」からつくって、よいものをある程度の数までつくれるようにしました。
(写真=曽川拓哉)
私は、飲食店を始めた頃から、働いてくれている人たち全員の給料を漸増的にベースアップしていくような構造ができないか、ずっと考えていました。しかし、「山本のハンバーグ」の経営でもそうだったのですが、従来は、店舗数を増やすことでしか飲食業の成長はありえなかった。
でも、店舗の利益率というのは、15%だったものが20%になることはあっても、突如「40%」に跳ね上がることはない。つまり、「構造上同じ体質のもの」を連続してつくっていく先に、利益体質の大幅改善は起こらないのです。
世の中で「飲食店経営母体にはブラック企業が多く、人が集まらない」となってしまっているのは、他の業種と比べて売上げに対しての利益率が比較的低く、働き手に配分できる率が少ないことが理由の一つだと感じています。
給料を上げにくいという業界体質を根本的に変えて、魅力的な人材に加わってもらうためにも、拠点を増やさず、売上をスケールさせられる可能性にチャレンジするために、ECに参入しようと思ったのです。
ひとつの拠点から、広い範囲に効率を上げて商品を販売することができれば、利益率が大きく上がる可能性があります。イートインで「ブランディング」をしつつ、ECで販売範囲を広げていく。いわば「ライセンスビジネス」の手法でよりよい利益ベースを実現して、スタッフによい給料でフィードバックすることができればと考えました。
「できたて」を提供することと、調理された食品を売るという中食のECは、確かに両極端にあります。僕は、イートインとECは「商圏」がそもそも違う、ならば分けて考えるべきだと思っています。
ECで手に入る商品を食べたときに、多くの人はすでに「EC経由のものと店舗で食べるものは、そもそも違う」と理解したうえで、利便性や「都合のよさ」などから利用されていると思います。イートインとは別の、確かなニーズがそこにはある。