経済・社会

2022.04.11 17:00

28年前の論文が予言したウクライナ


池田氏は「非核兵器保有国で同盟関係を持たないウクライナが、多大な国民の犠牲を払って国土を守っている姿は、核兵器を持たない国の悲哀を示している。NATOの核の傘に入ろうとした努力も実っていない」と指摘する。ロシアは今回、プーチン大統領らが、核兵器の使用をちらつかせながら、NATO諸国の参戦を防ぐことに成功している。「核兵器保有大国が核戦略をもって目標達成を進めようとするとき、非核兵器保有国かつ非同盟国は非常に弱い存在だということがわかる」

池田氏がハーバード大アジアセンターの研究者らと意見交換した結果、ロシアが核兵器を使う場合、二つの兆候が現れるはずだという結論になった。攻撃目標になる地域からのロシア軍の後退と、報復攻撃に備えたロシア本国での防衛体制の強化だ。池田氏は「現在は、まだこの二つの兆候は現れていないが、常にこの兆候が現れるかどうか注視しておく必要がある」と語る。

そして、池田氏はウクライナ危機を教訓に、日本も核抑止について改めて議論する必要があると唱える。「日本には、核大国である米国との強固な同盟がある。しかしながら、ウクライナ危機をみると、核保有国同士が戦争を避けたり、第3次世界大戦を避けようとする思惑が働いたりする可能性もある。米国の核の傘を含む拡大抑止が本当に機能するのかを考える必要もあるだろう」

昨年11月、折木良一元統合幕僚長が主宰し、池田氏も参加した国家安全保障戦略研究会が、国家安全保障戦略の見直しに向けた政策提言「新たな『国家安全保障戦略』に求められるもの」を発表した。提言は「非核三原則を国是として順守するだけで、国の安全を全うできる状況ではなくなりつつある」と警告している。

現在、防衛白書は非核三原則について「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずという原則を指し、我が国は国是としてこれを堅持している」と説明している。一方で、佐藤栄作首相が衆院予算委員会での答弁で初めて非核三原則に言及したのは半世紀以上前の1967年12月のことだ。

池田氏は「今回のウクライナの悲劇を繰り返してはいけない。ブダペスト覚書も28年経って、ただの紙切れになってしまった。私たちも非核三原則をかざして思考停止することなく、実効性を確保するための方法について具体的に議論する時を迎えている」と語った。

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文=牧野愛博

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