追い詰められたプーチンは今、何を狙う? 運命の岐路にさしかかるウクライナ

プーチン大統領(Photo by Kremlin Press Service/Handout/Anadolu Agency via Getty Images

ロシアがウクライナへの侵攻を続けている。ロシア軍は2月24日に全面侵攻を開始し、ウクライナの首都キエフや第2の都市ハリコフに迫り、一部では市街戦も起きている模様だ。米国防総省によれば、ロシア軍はウクライナとの国境地帯などに19万人の兵力を展開。当初はこのうちの約半数を投入していたが、現在は3分の2まで投入人員を増やしているという。ウクライナ軍による抵抗から、ロシア軍の進撃速度が弱まっているという報道もある。

松村五郎・元陸上自衛隊東北方面総監(元陸将)は「報道を見る限り、ロシア軍とウクライナ軍との大規模な組織戦闘が行われてるのかどうかは、わからない。ロシア軍による侵攻直後の攻撃から生き残った兵力や義勇兵、市民らによるパルチザンのような抵抗が続いているのかもしれない」と語る。1月にイギリスがウクライナへの供給を始めていると発表した携帯対戦車ミサイルや、ドイツ政府が26日にウクライナへの供与を決めた携行式地対空ミサイル「スティンガー」などがあれば、強力な抵抗手段になる。

穀倉地帯が広がるウクライナは、進撃してくるロシア軍を迎え撃てるチョーク・ポイントがほとんどない。ロシア軍も主要都市までは比較的容易に到達できるかもしれない。首都キエフは東側にドニエプル川、北西部に森林が広がる。ロシア軍がキエフを包囲して完全封鎖することは難しそうだが、ウクライナ軍が周辺から増援に駆けつけるのを防ぐことはできそうだ。

ただ、都市に隠れたウクライナ軍や義勇兵、市民らと戦うのは容易ではない。松村氏によれば、旧日本軍から自衛隊に受け継がれている「森は兵を飲む」という言葉がある。平野部なら可能な、近代兵器を使った戦闘が、森に隠れている相手には通用しない。部隊をいくら森に投入してもきりがないという意味だ。都市は現代の森にあたる。

しかも、ウクライナでは政府が市民に火炎瓶の作り方を教え、実際に準備している市民の姿も写真で紹介されている。ゼレンスキー大統領が「キエフにとどまる」と語るなど、市民の士気は高いようだ。

松村氏は「市街戦で勝利を目指すなら、米軍が2004年にイラク・ファルージャでやったような大規模な空爆が効果的だ。だが、ロシアはその選択肢は採らないだろう」とも語る。確かに、プーチン大統領は2月24日に行った演説で、今回の軍事侵攻について「ウクライナ政権によって8年間、虐げられてきた人々を保護することが目的だ」と語っている。キエフの全面空爆に踏み切れば、民間人の死者が多数出ることは避けられず、ロシアに対する国際的な非難は頂点に達し、ロシアの置かれた立場がますます悪化するのは間違いない。プーチン大統領は事前の入念な準備を経て、「NATO(北大西洋条約機構)は介入しない」と確信したようだが、ドイツは上述したように方針を変更してウクライナへの武器供与を決めるなど、徐々にその「計算」にほころびが見え始めている。
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文=牧野愛博

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