これまで、メルカリやラクスル、BASEといったスタートアップのIPOを主幹事会社(上場に向けた事務手続きや証券取引所への推薦、株価の設定などを担う証券会社)の中心人物として実現させてきた、まさにIPOの請負人だ。
また、経営破綻した日本航空(JAL)の再上場や、楽天、DeNA、GMOなど名だたる上場企業の資金調達にも携わってきた。
その丸尾が2021年の秋頃から主幹事として担当し、今後の成長企業として太鼓判を押すのが、山田修が率いるMicoworks(ミコワークス)だ。2017年に設立、2019年2月からLINEを活用したマーケティングツール「MicoCloud(ミコクラウド)」の開発と販売を手掛けている。
ミコクラウドでは、企業などのLINEアカウントからユーザーに質問を送信して、そこで得た属性や嗜好データをもとにクーポンを配信するといったマーケティングを行うことができる。
飲食店の顧客の再来店促進から、ブライダル企業のヒアリング自動化と来場者の予約、さらには病院での予約、オンライン診察、薬の決済まで、利用方法は多岐にわたる。ビジネスモデルにはSaaS (継続課金をすることで、ネット上で利用できるソフトウェア)を採用し、重要指標となる継続率は驚異の99.4%にも上る。
今年2月、ミコワークスはシリーズAで12億円の資金調達をするなど、投資家からの視線も熱い。
近年、ミコワークス同様の「SaaS企業」は増えてはいるが、資金が集まりやすくなる反面、上場を急ぎ過ぎるあまり時価総額の小さいIPOも少なくない。上場後の成長が停滞するという課題も浮かび上がってきた。
上場に関して起業家はどのようなマインドを持てばよいのか、丸尾と山田へのインタビューを通してあぶり出してみた。
流行りや雰囲気で事業をつくる起業家たち
──IPOのタイミングをどう考えている?
丸尾:IPOは、トップの「やり切る力」が重要です。ただ、それ以上に必要なのは、上場後にどう変化し続けるかで、そのためにいつIPOするのが最適なのかを考えるべきです。
日々さまざまな起業家と話しますが、「早く上場したい」とよく言ってくる。なぜこのタイミングで上場する必要があるのかと聞くと、「投資家から早期の上場を迫られるから」「ライバルの起業家に負けたくないから」と言ってくる。どちらも不純な動機ですよ。
SaaSも半分流行りですね。「みんなやっているから取り入れる」という人がいますが、実は本当にやりたいことなのかどうか、あやふやなことが多い。確かにモデルとしては合理的だし、投資家からの理解も得やすい。
でも「SaaSにしないと投資が受けられない、バリュエーションがつかない」といった理由でビジネスモデルを考えるのは、上場ゴールの発想ですよね。