丸尾:山田さんが「1億円しか見てなかった自分に気づきました」と言ったように、そこで考えが変わっていくことがなにより重要です。変わるという意味では、稼げていた事業を売却した経験もありますね。
山田:はい。ミコワークスは、就活生と企業のマッチングサービス事業からスタートし、次に採用管理のSaaSを提供し始めました。それらは、多くのリソースを割かなくても、年間何千万円単位のキャッシュが生まれるビジネスだったんです。
ただ、日本で圧倒的No.1になれる、グローバルで戦える事業をつくりたいという気持ちが常にありました。
並行してミコクラウドも運用していて、そちらのほうが少人数で高い成長率を生み出せると考えて、マッチングサービス事業は2020年の9月に譲渡しました。
丸尾:すごく感心しました。僕だったら絶対そのまま持っておきます、稼げているわけですから(笑)。そういう意味で山田さんはすぱっと変えることができる人なのです。
仮に上場すれば、四半期ごとに情報開示を求められ、ちょっとでも業績が悪かったら株価は一気に落ちる。「こんな事業をやります!」と発言しても、実行しなければ株主から「いつ始めるのか」「本当にやるのか」と詰められる。
投資家の立場から見れば、変わり続けることを見せ、事業を次々と打ち出せる経営者でないと、命の次に大事なお金をかける理由はないですからね。
例えば、ソフトバンクの孫正義さんは「何屋」さんか。世の中的には携帯会社と思われていますが、いまは投資領域へ、やりたいことが移っているんです。サイバーエージェントの藤田晋さんはどうか。広告代理店からスタートしたけれど、いまは「ABEMA」に注力しています。赤字を掘ってでも、エンターテイメント業に転換していこうとしているわけです。
U-Nextの宇野康秀さんも、もともとはUSENを率いて上場させましたが、その後は動画配信に参入している。脚光を浴びる起業家は、常に変わり続けているんです。
──変わるために必要なことは。
丸尾:原油価格が高騰したりロシアによるウクライナ侵攻が起きたり、時代が変化するなかで連想し、新規事業をやり続けることです。
メタバースやウェブ3、ESG、EVは間違いなく次のテーマです。でも、見るべきは、その時々のトレンドだけではありません。
例えば「ゲーム産業」は、波はありつつも定期的に成長が見込める領域です。ゲームは年代にかかわらず人気だから、プレイする人口は減らない。そこに今度はデジタル通貨が入ってくると、ゲームの世界でパチンコのような、勝ってお金が得られるようなサービスがつくれるかもしれない。そう連想していって、実行することです。
2者へのインタビューから浮かび上がった、「周りの意識や雰囲気に惑わされる」という起業家のマインドは、日本特有の同調圧力ではないだろうか。
ただ、例にも挙がった孫氏や藤田氏はじめとした変わり続けるトップがいる会社は、成長が簡単には衰えない。未上場のスタートアップでも、山田のように好調事業に固執しない、「潔さ」が理想の姿なのかもしれない。