ビジネス

2022.04.09

IPO請負人が語る、「上場ゴール」より重要な起業家マインド

左から、Micoworks CEOの山田修と丸尾浩一(撮影=林孝典)


例えば、時価総額100億円で上場しても、資金はその10%の10億円ほどしか獲得できません。それでは上場したメリットがない。

日本の新興市場は上場がしやすく、ハードルを下げているという意味では素晴らしいと思います。ただ、それをいいことに、50億円未満レベルで上場する企業がたくさんありますが、それは早計ではないでしょうか。

10年後であってもいいわけです。山田さんだって10年経っても40歳。なぜ焦る? 起業家人生はまだまだあるのに。

丸尾浩一
丸尾浩一

アメリカだと、周りに合わせたり、急いで上場したりする風潮はありません。数十億円規模の事業なら、みなグーグルやメタに売ってしまう。上場をめざす経営者はみな、ユニコーン(評価額10億ドル以上の企業)規模じゃないとIPOしないぞという気概を持っているんです。

──ミコワークスの上場については。

山田:準備はしていますが、早く上場しようと考えることはほとんどないです。大事なのは、圧倒的に顧客の支持を得ることなので、感動が生まれるようなサービスづくりに集中しています。経営チームでもいつ頃の上場をめざそうかといった会話は一切ありません。

とはいえ、「上場ゴール」を意識する時期もありました。ミコワークスを始めて1年が経った頃、会社ごと買収したいという話が持ちかけられました。その話は断ったのですが、売却しないという意思決定をした以上、より大きな事業をつくらなければならないと思い始めたのです。

Micoworks 山田修
山田修

その頃は、なんとなく2年後にはIPOをしたいなと考えていました。しかし一方で 、会社も経営チームも未成熟で、無理している感もありました。月100万円の売り上げが必要なのに、いまのリソースでは50万円がやっとというイメージです。現実にコーポレート部門は人材不足で、監査や経理がすべてCFOにのしかかる状態。全員が疲弊していて、いずれ限界が来るだろうと思っていました。

丸尾:設立数年の未成熟の状態で上場した会社はいくつもあります。僕も早い段階でIPOをさせたこともある。でもそういうスタートアップは、たいてい上場後に数年かけて経営から立て直すことになるのです。

山田さん、上場のタイミングについて「なんとなく」と言いましたよね。雰囲気です。周囲がIPOを意識しているから、『いずれ上場しなければ』と思ってしまう。

目先の1億円からの転換


──2年後にIPOをしたいという考えがなぜ変わった?

山田:丸尾さんと出会い、焼肉を食べながら話しているとき、1年後の未来という時間軸で物事を見ていることに気づいたんです。近い将来を考えるから、目先の1億円2億円が大きな額に思えてしまうのだと。

そうではなく、会社は持続的に成長しなければならない。10年や20年先の繁栄を考えたら、目先の1億円や2億円なんて小さい。何を私は急いでいるのだろうと冷静に考えることができました。

丸尾:うまくいく起業家というのは、ある時はたと考えるわけです。「なんのためにIPOするんだっけ」と。すると方針は変わっていきます。最初から長期的な視点に立てる人などいない。まして20代の起業家なんて、目の前のお金が大きく見えてしまうものです。
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文=露原直人 撮影=林孝典

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