アーティスト西嶋豊彦。「文字の読み書きが困難」だからこそ表現できる世界


──また、2011年から約10年の間、海外での展示会や個展開催に力を注いでいるようですが、その経歴について簡単に紹介していただけますか

西嶋:まず2011年、フランス「ルーブル美術館」内の一角で開催されたパリ個展「Toyohiko Nishijima et Coco」を皮切りに、2013年には名誉ゲスト・アーティストとしてニューヨーク、サンフランシスコ、シアトル、マイアミ、スイス、ロンドンと、精力的に海外活動を続けてきましたが、ご存知の通り現在はコロナ禍のため、海外で開催される個展は暫く休業中といったところです。

──海外での出展を経験なさっている中で、何か改めて感じた発見のようなものはあったのでしょうか?

西嶋:日本の美を再発見する良い機会になったと思っています。また、繊細な技法と長い歴史を持ち合わせる「和紙」の他にも、アジア圏に根ざす「漆」にも改めて着目するようになりました。樹皮から生まれる「和紙」と樹液から生まれる「漆」の融合を私の作品の永遠のテーマとも言うべき「光」「水」「自然」の恵みを通して、日本独特の「死生観」や「中庸の美」を表現し、このコロナ禍が明けたら、改めて海外へ向けて発信してみたいと思っているところです。

シロアリに注目


──今、私たちが住んでいる地球は「地球温暖化」や「将来の食糧危機」、それに伴う「再生エネルギーの活用」など数多くの問題を抱えていますが、そうした地球規模の危機に対してアーティストとしてどのような取り組みや貢献を考えているのでしょうか

西嶋:花を写生していると、花が咲き、実を結び、土に帰るという繰り返しが脈々と続く「森羅万象」の世界観を強く感じます。今世界では「SDGs」が合言葉のように唱えられていますが、連鎖的に循環する自然の摂理への愛おしさを一人でも多くの方達にご理解いただき、地球パズルを紐解く小さなきっかけになってくれれば嬉しく思います。

また、私は今「シロアリ」をモチーフとした創作活動を始めているんです。と言うのも、シロアリは元来、木を食べる害虫とされてきました。しかし、近年その生態を調べている内に、シロアリが多種多様な分解と再生を繰り返す持続可能で、地球の将来に有用な虫ということが分かり、注目を浴び始めているんです。

例えば「シロアリ」から取り出した細菌で生ごみを水素ガスにし、電機や他の燃料に転換することを可能にする。さらに、「シロアリ」が作り出す巣は温度調整が可能で、このことを参考にして将来的にエアコンのない建築の可能性が生まれてきているんです。「シロアリ」がSDGsに貢献できる有益な虫になり得るというメッセージだけではなく、今まで「ネガティブ」だったものが、ある日突然「ポジティブ」になる可能性、この世の中に「絶対」はないという多様性を「絵画」というツールを通して世界に発信していきたいと考えています。
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文=賀陽輝代

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