アーティスト西嶋豊彦。「文字の読み書きが困難」だからこそ表現できる世界


──では、「死との対峙」の中で自問自答する世界からどのようにして「光に満ちた生の世界」に到達したのでしょうか

西嶋:雪が降り、凍り付くような寒い冬のある日、僕はその日も縁側で自問自答を繰り返していました。そして身も心も凍てついた状態の中で、ふと指先に僅かな温もりを感じて目を開けて指先を見ると、朝日が一筋の導きの様に輝いていたんです。そのとき、僕は「朝日は何て暖かいんだろう。この温もりを僕はこうしてまだ感じることができている」と直感的に感じ、生きる上で温もりがどんなに大切なものであるかを肌身で感じ取ったんです。

あのときの感覚をうまく表現することは難しいのですが、「神の両手に救い上げられた」あるいは「自然界から導きを受けた」、 そんな感じを受け取っていたような気がします。

僕の作品をご覧頂くと多分分かっていただけるかと思いますが、それ以降の作品は今日に至るまで「光と温もり」のテーマを中心に描いたものばかりなんです。僕の作品を鑑賞していただく一人でも多くの方達に「命の光」の温かさを感じ取って頂ければこれ以上に嬉しいことはありません。

「和紙」も呼吸をする生き物


──ご自分が学んだ紙漉きで作る和紙や箔などを組み合わせた作品が特徴の一つだと伺っていますが、どのような過程で素材を作り上げるのか、その詳細を教えてください。

西嶋:実はその技巧法については「絵和紙」で特許申請をし、商標登録している関係上、あまり詳しくはお話しできないのですが、まず原料になる木を畑に植え、素材になるまで3年待つ必要がありました。そしてその間、全国の和紙工房を訪ね歩いて様々な学びと試行を積み重ねてみたんです。主な特徴としては、厚みが0.03mmという薄さの中で透かし模様の繊維の濃淡のグラデーションを作り、和紙そのものに絵画性を生み出すという試みを施しています。

和紙には、その肌合いや手触りに何か心を落ち着かせ、安らぎを感じさせてくれる柔らかさや独特の空気感があるんです。昔ながらの木造建築の家で障子や襖に囲まれて生活する中で、「木」や「和紙」も呼吸をしている「生き物」という実感を持っていて、和紙が発する主張しない無言の美しさから、光と自由な空間を楽しんでもらいたい。今までは単なる「素材」としての立ち位置しか持たなかった「和紙」を芸術の領域まで引き上げ、新しい芸術分野の舞台に立たせてみたいという思いで制作活動を続けています。


和紙工程1 紙漉き


──今まで国内で開催した個展や展示会などを含めて、どのような活動をされてきたのでしょうか

西嶋:実は僕は画家として決して王道を歩いてきたわけではなく、高校卒業後一度就職し、その後画家を目指して自費で美術大学に通うという経歴の持ち主で、多少変則的なスタートを切っているんです。今までの活動としては、数多くの個展を中心に、神社・仏閣でのグループ展、三越、高島屋、大丸、西武での展覧会などが挙げられますし、2018年には「絵和紙とロボット」のコラボ創作にも挑戦しています。
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文=賀陽輝代

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