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2022.04.01 17:30

日本企業再興の決め手は専門家サラリーマンにある

川村雄介の飛耳長目

日本経済は元気がないといわれ続けている。勤労者の多くを占めるサラリーマンに覇気がないからこうなるという指摘もある。かつての猛烈サラリーマンのように、24時間働けますか? などと口走ろうものなら、SDGsや働き方改革で完全にアウトだ。成長よりも分配、野望実現よりも格差是正がキモ。昨今では、サラリと仕事をするからサラリーマンなのか。

どっこい、しつこいサラリーマンもいる。

ヨーグルトの容器に注目したことがあるだろうか。プラスチック製の器に薄いアルミ箔のシール状のふたがついているおなじみのものだ。かつて、これはなかなかに厄介な代物だった。ぎゅっと開けると、ふたの裏にべっとり付着したヨーグルトが飛散して、上着を汚されることもしばしばだった。乳業会社にも多くの苦情が寄せられていた。ふたを製造するアルミニウム二次加工品メーカーが相談を受けたが、妙案は浮かばなかった。

それが、いつからかクレームを聞かなくなった。昨今のふたには中身がまったくくっつかないからだ。服に飛ぶおそれもない。実は、ひたすらこの新ふた開発に15年の歳月を費やしたサラリーマンがいる。

高校卒業と同時に入社したくだんのアルミ加工品メーカーで、彼は現場発のR&D活動に身を置いた。研究生活一筋、いくつものテーマに携わるなかで、いちばん苦労したものが、この中身が付着しないヨーグルトのふただった。当初は甘く見ていたテーマだったが、大した難物で、5年、10年とたっても開発のめどすら立たない。水をはじく蓮の葉をヒントに、苦節15年にしてようやく製品化にこぎつけた。

このアルミふたは表面に無数の微細な突起をつけることで課題を解決した。人工の金属製蓮の葉である。新ふたは飛沫防止に役立つだけではない。ふたに付着して無駄になるヨーグルトの分量は、世界中で1年間に150万トンにも上るという。アフリカの年間総消費量に相当する。このふたは、食品ロスの解決にも資するSDGs商品なのだ。

日本の製造業には、こうした隠れた逸話が数多くある。開発者たちのほとんどは地味なサラリーマンだ。メディアに仰々しく顔を出すことはなく、したり顔で有識者ぶることもない。しかし、自身の研究へのこだわりと探求心の強さは半端なものではない。静かな熱情、二枚腰の粘りのもち主たちでもある。真の専門家だ。

他方で、世にいう「専門家」や「有識者」はどうか。ふと数年前の映画「シン・ゴジラ」のシーンを思い浮かべる。未知の存在についてもっともらしい専門用語を並べるが、結局はわからない。事態の解決どころか解明すらできない。
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文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.091 2022年月3号(2022/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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