最近でも、日本人は日々「専門家」を見せつけられてきた。コロナを巡るマスコミ上の少なからぬ諸氏の言説であり、対応である。解決どころかかえって世の中を混乱させた。
もちろんこのような「専門家」の弊害は、彼らを選ぶメディアの側にもある。真の専門家は、派手に露出することなく、謙虚に堅実に真理の追求と解決に当たっているのだろう。そうした本当の専門家の多くは、実は企業や大学に勤めるサラリーマンである。数の上では、メディアの常連よりはるかに多い。
専門家は純粋理系分野だけではない。会社のなかには、市場開拓や商いの方法、網の目のような規制を逆に活用していく手腕、組織の効率化のノウハウ、何より職場を活性化して企業価値の向上につなげていく人間力など、事業遂行上のソフトウェアにも専門家が存在する。
日本企業再興の決め手のひとつは、こうしたサラリーマン専門家を上手に育て、大切にして、彼らのモチベーションを高めていくことである。
日本の技術力やノウハウの特徴は、基本に改良を重ねて、飛躍的に精度や効率、コストに優れたものにしていくことにある。0to1というより1to10だ。日本人は前者が苦手だから経済成長にも限界があるといわれるがそうではない。後者を磨き上げるなかで0to1を成し遂げノーベル賞を受賞した人も少なくない。それに1to10そのものが大きな価値をもつし、サラリーマンにも向いている。こんな日本の得意技で勝負するメリットを大切にしたい。昭和時代はそれが成功した。
起業家育成、スタートアップも魅力的だが、だからといって、本来の得手を捨てることはない。いまはやりの学びなおしやリスキリングは、サラリーマンこそ本物の専門家だ、という視点で強化していくべきである。
川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボード、嵯峨美術大学客員教授などを兼務。