山田:これまでいろいろな非営利領域の活動を見てきましたが、私自身はスタートアップ的な手法で財団を手がけていきたいと思っています。そうすればきっと、もっと面白いことができる。例えば、アジャイル開発の手法を取り入れて、フィードバックを得ながら素早く改善していく。データやAIを活用したプロダクト開発手法やDAO(分散型自律組織)のような新しいインセンティブの導入など、試してみたいことはたくさんあります。
今回の奨学金制度で最も特徴的なのは、給付対象者を抽選で選ぶという点です。これも新しい手法のひとつだと思います。経済状況や成績などにかかわらず気軽にエントリーしてほしいし、偶然から生まれる可能性を大事にしたい。たまたま選ばれることで、自分の成功は運にすぎないと気づくきっかけにもなる。奨学金を出すうえで「35年までに28%」という数値目標を掲げたのも、スタートアップの目標達成マネジメント手法を取り入れたいからです。
こうした手法を活用することで、フィランソロピーのあり方にどんな変化をもたらし得るかは、やってみないとわかりません。ただ、従来の財団に比べて速く動けている感覚はあり、多くの方から賛意や協力も得られているので、ムーブメントにできるという思いはもっています。
結果的に生まれた「新結合」
笠原:みてね基金では、ETIC.のメンバーとミクシィ社員有志による伴走支援も行っています。これが助成先はもちろん、ミクシィ社員の刺激にもなっています。
組織運営やサービスの認知度向上など、NPOが抱える課題は営利企業の課題とよく似ています。そうした課題に対して、ミクシィ社員はビジネスで培ってきたノウハウを生かすことができる。さらに、強い思いをもって活動している人たちから熱意のシャワーを浴びることで、自分たちの事業の意義や役割を再認識する機会ももたらされていると感じます。
山田:笠原さんは、社員のみなさんとうまく連携していますよね。実は、財団の名前を決めるとき、メルカリという社名を入れるかどうか結構迷ったんですよ。最終的に会社と財団とを切り離すことにしたのですが、結果的に元メルカリ社員で共同創業者の富島君(富島寛)など昔からつながりのある人たちが協力してくれて、思いがけず新たなハーモニーが生まれています。
笠原:会社を離れた人たちと一緒に運営するのもいいですよね。みてね基金も、設立を発表したらミクシィの元社員たちからも喜ばれました。こうした活動が求められる時代だと感じます。
宮城:笠原さんも進太郎さんも、お金を出すだけではなく運営にもハンズオンでコミットしています。その背景にはどんな思いがあるのですか。
笠原:私の場合は、仕事と社会的活動とプライベートが首尾一貫しています。昔から家族が好きで、子どもが好き。その思いが原動力であり、ゴールでもある。
いまだからお話しすると、みてねのサービスを始めた15年からいまにいたる数年が人生でいちばん幸せな時期です。子どもや家族への愛情をストレートに事業に注ぎ込むことができた。私は、公私が同じビジョンで完全に一致している状態が最強の幸せだと思います。だから、事業を通じた社会貢献と社会的な活動による貢献の両輪を当たり前のようにやっていきたい。
お金に関しては、自分は管理人にすぎないという感覚でいます。会社のみんなが頑張ってくれた結果もたらされたお金をどう使うかは、俯瞰的に社会を見たうえで考えたいのです。