山田進太郎(以下、山田):メルカリは全社でD&Iに力を入れています。誰もが能力を発揮できる会社にしたいし、個人のポテンシャルをさらに引き出すことができれば、よりよいサービスやプロダクトをつくれるという思いが強くあります。
メルカリは外国人の社員がとても多く、東京オフィスにいるエンジニアの半分は外国籍です。一方で、ジェンダーバランスの改善は思うように進んでいません。理由のひとつは、日本ではそもそも女性のエンジニアの数がかなり少ないので、女性の比率を上げていくのは非常に難しい。これはいち企業が取り組むだけで解決できる問題ではありません。
まずは、この状況に対してくさびを打ち込むことがほかの課題の解決にもつながり得るのではないか。その手段として、高校入学時点でSTEM(科学・技術・工学・数学)を選択する女子学生に給付型の奨学金を出して進路を後押ししてみたらどうか。そう考えてD&I財団を設立し、理系に興味がある女子学生に向けた奨学金制度をつくったのです。
日本は、大学進学者でSTEM分野を選ぶ学生に占める女性の比率がOECDのなかでも最低です(2019年時点)。背景には、理系の分野に興味があってもなんとなく選びにくいといった風潮があると私は思います。D&I財団では「35年度の大学入学者において、STEMを選ぶ女性の比率をOECD平均と同じ28%にする」という目標を掲げながら、誰もが好きなことに自由に取り組める社会づくりを目指しています。
山田進太郎D&I財団
性別や年齢、人種、宗教などにかかわらず誰もが能力を発揮できる社会の実現を目指して、メルカリ代表取締役CEOの山田進太郎が2021年7月に個人で設立した財団。ジャパンタイムズ代表取締役会長兼社長の末松弥奈子とメルカリ共同創業者の富島寛が理事を務め、評議員にはNPO法人ETIC.創設者の宮城治男が名を連ねる。プロジェクトの第1弾として、22年4月に高校入学を予定する理系志望の女子学生100人に奨学金を給付する。対象者は応募者のなかから抽選で選び、学業の成績や親の年収といった条件は問わない。KPIとして、35年度の大学入学者においてSTEM(科学、技術、工学、数学)を選択する女性の比率をOECD平均と同じ28%にすることを設定。目標達成のために30億円以上の私財を中長期的に寄付し、文理選択で男女差がつきはじめる高校生段階で、女性が理系を選択しやすくなるように金銭面から後押しをするほか、啓発活動や同世代でのコミュニティづくりにも取り組んでいく予定だ。
宮城治男(以下、宮城):ETIC.は今回、みてね基金とD&I財団の運営サポートをしています。それにしても、笠原さんも(山田)進太郎さんも、学生時代とまったく雰囲気が変わらないですよね。
笠原・山田:宮城さんがいちばん変わってないですよ(笑)。
宮城:私は1993年に、ETIC.の前身となる学生団体を立ち上げました。当時は日本の若者が自分でやりたい仕事をつくる、自ら社会を変えていくという展望をもつこと自体ハードルが高かった。そこで「起業家」という生き方を同世代の人に伝える活動を始めたときに知り合ったのが、当時大学生だった笠原さんと進太郎さんです。
インターネット黎明(れいめい)期にスタートアップを立ち上げた人たちは、個人や社会のポテンシャルを最大化するという夢と社会起業家的なマインドをもって頑張っていました。おふたりの、経済的な成功を手にしても社会をよくするために自分ができることを追求している姿勢は、学生時代のままのように自然体で、新しい起業家のスタイルのように見えます。