ビジネス

2022.03.23 08:00

いま日本に必要な、もうひとつのR&D「Resarch & Destroy」

「R&D」といえば普通は「Research & Development」。しかし、さまざまなものが絡み合っているが故に、生産性を落としたり、違和感があったりしている日本に必要なことは、つくる前に壊すことではないか。新しいことが生まれる阻害要因を、調べて(Research)、壊す(Destroy)、もうひとつのR&Dプロセス「Research & Destroy」をここに紹介する。


きっかけは、電通Bチームメンバー・飯田昭雄が着ていた青いシャツだった。ストリートカルチャー担当の彼らしく、友人のブランドだというその服には、小さな文字で、「Search & Destroy」とプリントが施されていた。

音楽好きの方は、Iggy Popの曲名だとすぐわかっただろう。さらに博識の方はこう気づいただろう。ベトナム戦争時のアメリカの作戦名だと。

しかし、そのどちらとも察知できなかった無学な僕の頭に浮かんだのはまったく違うことだった。

まず「Re」をつけて「Research & Destroy」にしたらどうかと思った。略したらR&D。普通、R&Dは「Research & Development」、いわゆる研究開発のことだが、こっちは、調べてぶっ壊すという意味が真逆のR&Dである。

新しいものをつくる前には壊さなければいけないとよくいわれる。しかし、慣習を変えず、前例主義で変化を厭いとうのがいまの日本。新しいものを生むために、いまの世の中の違和感や、進化を阻害しているものを調べて壊す必要がある。それをかなえるプロセスが、新しいR&D=Research & Destroyである。そして、そんな組織があったら、かなり面白いと思う。世界初の研究破壊部門。

そんなことを頭に巡らせたのは、実はもうかれこれ5年も前のこと。その日から今日まで、まさにR&Dだな、という出来事が世の中にいくつも起こった。最も有名なところで言えば、グレタ・トゥーンベリだ。気候変動に関する文献を読み尽くし、科学的根拠にのっとったうえで学校ストライキ「Fridays For Future」を起こし、地球の未来を壊す人類の習慣を「壊す」活動を展開している。

日本の子どもも新しいR&Dの動きを起こしている。例えば、小学生たちがルール改正を求めて見事成功した話。廃校後、子どもたちの遊び場になっていた旧板橋第三小学校の校庭が、工事の関係で突如ボール遊びが禁止になった。いままでそこで遊んでいた小学生たちは困り果て、区長に手紙を書いたが、返事は来るも対応はされなかった。

そこで彼らは、周りの遊び場をリサーチ。これでは遊べないという調査結果を導き出し、ボランティアの方の力を借りて、区議会に陳情書を提出。改正要求が認められ、見事ルールの壁を壊した。その決定を聞いた子どもたちのコメントがまたいい。「いちばんうれしかったのは、『子どもの意見を聞く』ということ。遊び場だけでなくほかのことにも子どもたちが訴えることができるのでいいなと思った」。リサーチを行い、ルールを壊したことで、すでに未来が生まれ始めている。


ここが、子供たちが遊びのルール改正を求めて勝ち取った、旧板橋第三小学校。ある意味聖地。 
次ページ > 頑張っているのは子どもだけではない

文=倉成英俊 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

電通Bチームの NEW CONCEPT採集

ForbesBrandVoice

人気記事