人には「認知特性」という個性があり、一人ひとり異なる。自分の認知特性を知ることは、偏差値で測ることのできない新しい尺度を発見すること。そして、他者のそれを知ることで強みをかけ合わせながら、時には弱みを補い合いながら付き合うことができる。あなたの認知特性は何だろう?
認知特性とは、人が生まれながらにもった思考の嗜好のこと。視覚、言語、聴覚の3つに分けられる。互いの認知特性を理解すると、得意なこと不得意なことが明確になり付き合い方や、適正な仕事の進め方を理解できる。つまりストレスがない社会生活を送れる可能性が高くなる。だが、最大のメリットは「特性を知ると自分の気持ちが楽になる」だと思っている。
認知特性に出合ったのは広告代理店のアートディレクターになった9年目のこと。小児科医である女性と半年という短い交際期間を経て結婚したころにさかのぼる。別世界に住んでいた私たちが一緒に暮らし始めたわけだが、徐々に私たちはお互いに違和感を覚えるようになった。
妻は毎日とにかくよくしゃべった。病院での出来事、友人とのこと、テレビで見たこと……。どんなことも事細かく、的確な時系列で、オチもあり、巧みな話術でしゃべりまくっていた。私はいつでも妻の話を真剣に聞き、情景をイメージしたり、心情を思い浮かべたりしながら、自分なりに適切な相づちを打ち感想を述べ、彼女との会話が成り立つようにと必死だった。が、妻はそんな私にいつも不満を述べた。「ちゃんと聞いてるの?」「どう思ってるの?」「もっとわかりやすく説明してよ」。
私の頭の中では、話を聞いた情景やら感情やらが色鮮やかなイメージとしてたくさん浮かんでいるのだが、妻が納得する「言葉」で表現することができない。
そんなある日、会社から帰宅した私を玄関で出迎えてくれた妻が青いセーターを着ていた。その姿を見た瞬間に、ちょうど1年前の寒い日の妻とのくだらない大げんかの情景が一瞬にしてよみがってきた。
恐ろしい形相の妻は青い同じセーターを着ていて、彼女の後ろにあるテレビにはヒトラーの特集番組が映し出されていた。テーブルの上にはビールと青椒肉絲の大皿があった。
青いセーターを見た瞬間にそのときの何とも言えない感情が湧き上がってきて、そして私は妻に一言、「そのセーターあまり好きじゃないな……」とだけ告げた。
そんなことを突然言われた妻はとてもけげんな顔をしていたが、数日たってから自分があのときに見た走馬灯のように浮かんだ情景を説明すると、「着ていた服も食事のメニューもテレビも覚えているわけないじゃない!」と妻が言った。