キャリア・教育

2022.02.11 12:00

みんなが知らない認知の傾向「認知特性」


私は仕事柄、時に数百枚を超える似たような写真のなかから、色・角度・形・影・風合いなどの違いを見つけていちばんいいものを選ぶ作業をしている。そんな仕事を横で見ている妻は、どこが違うのか、どうやって覚えているのかと私に問い、すごい能力だ! と称賛してくれる。

私にしてみればまったく異なる一枚一枚の写真の違いがわからない妻のほうが不思議でたまらなかったし、医学雑誌や本の原稿、SNSの投稿などどんな文章でもスラスラと、あっという間に書き上げてしまう妻の能力のほうが称賛に値すると思っていた。

そんな妻が結婚5年目にある本を書き上げた。『医師のつくった「頭のよさ」テスト』(光文社)だ。子どもの神経心理発達を専門とする妻は、子どもの得意と不得意の差や、学習方法の違いなどを研究している。そして、その本には神経心理学用語の「認知特性」というものがこう記されていた。

「認知特性とは、外界からの情報を頭の中で理解・記憶(インプット)したり、表現(アウトプット)したりする方法のこと。同じことを見ても、聞いても自分と同じ方法で相手が理解するわけではない」。そして、視覚優位者の私と、言語優位者の妻との数々のエピソードが書かれていた。「視覚優位者は頭の中にカメラを持っていてビジュアルで判断」「言語優位者は読書など言語の処理に長けている」など。


問題を解くだけで自分の認知特性がわかる。著者は医学博士、小児科専門医、小児神経専門医、医療法人社団のびた理事長の本田真美

だから私は「言葉」で表現することが苦手で、昔見た映像が色あせずに頭に残っているのだ。学生時代は黒板の前でペラペラと話す教師の話はまったく入ってこなかったし、クライアントへの企画プレゼンは話すよりもパワーポイントで提示したほうがわかりやすい。認知特性を知ったことで、気づかなかった視覚という強みに自信がもてて、嫌気がさしていた言語という弱みに開き直れた。


赤いラインを越えると偏りの数値。真逆の特性をもった夫婦ながらお互いの特性を理解し尊重すれば想像以上のコミュニケーションが可能となる

我々夫婦はお互いの特性を理解したうえでコミュニケーションをとり、小児科クリニックの開院にあたり、私が広告的知見を生かしコンセプトやビジュアルを担当、将来のビジョンと診療を妻が担当、地域に根づきながらも日本唯一の小児科クリニックを目指し始動させてから5年が経つ。


2016年東京都世田谷区に開設した、「みくりキッズくりにっく」。さまざまな職種のスタッフたちと日本唯一の小児科クリニックを目指している

この相いれない者同士が互いに理解し合うことによる相乗効果は、企業や教育現場でも流用が可能だ。適材適所に特性を配置するバランス型の組織づくり、偏った特性同士を組ませる戦略的なチームづくり。さまざまな編成により画期的な結果が得られるだろう。認知特性の多様な組み合わせは創造性に富んだアプローチになりうるのだ。


電通Bチーム◎2014年に秘密裏に始まった知る人ぞ知るクリエーティブチーム。社内外の特任リサーチャー50人が自分のB面を活用し、1人1ジャンルを常にリサーチ。社会を変える各種プロジェクトのみを支援している。平均年齢36歳。合言葉は「好奇心ファースト」。

本田晶大◎電通Bチームの派生組織「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」でデザイン担当。デザインの視点から発想プログラムを開発。最近では小児科クリニックの内装設計から運営コンセプトまで総合プロデュース。

文=本田晶大 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN No.088 2021年12月号(2021/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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