報道の論調もほぼ同様で、「週刊文春」は「もしプーチンに少しでも合理性が残っているなら、兄弟民族であるウクライナ人との全面戦争など始めるはずがない」という産経新聞前モスクワ支局長の談話を載せている。
先月モスクワでプーチン大統領と会談したマクロン仏大統領は、「2年前と同じ人物ではなかった。頑なになり、孤立していた」と記者団に漏らしたという。今年70歳という年齢を危惧し、ウクライナや西側諸国が敵に見え、やりすぎと分かっていても止められない「強迫性神経症」と“診断”する内科医師のコラムも読んだ。はたして、その見解は妥当なのか?
国益主義者か? 狂人か?
結論を先に書こう。
プーチン大統領は「サイコパス」である──。
説明に入る前に、まず加齢による衰え、変節を指摘するメディアへの反論から述べる。
一昨年、英国大衆紙が「プーチンはパーキンソン病」と報じたことがあった。
この病気はある種の代謝産物が中枢神経に蓄積し、神経の伝導に不調をきたす疾患だ。難病指定されている中での発病率は多いほうで、昭和天皇もそうだった。大脳に蓄積すると幻視などの精神症状が出て、認知症の原因の一つにはなる。だが、それを医学的に裏付ける病状報道を寡聞にして知らない。
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むしろ、プーチン大統領と比較されるヒトラーがパーキンソン病だったことは意外と知られていない。死の3年前からヒトラーは左手が震えるようになった。晩年に接見した軍医が断定している。
プーチン大統領がウクライナへの侵攻度に焦りを感じているとみた米国バイデン政権は、情報機関に精神分析を指示したとのニュースが流れた。核使用をちらつかせ、ウクライナの原子力発電所を攻撃した事実をみると、なるほどと思いたくなるが、ここは慎重になる必要がある。
そもそも「前任」のエリツィン大統領がすでに、西側との交渉時に核使用をほのめかしているし、世界の核保有国で非常時に似たような考えを持つ政治指導者は少なからずいる、と私はみている。
元外務省主任分析官の佐藤優氏の緊急寄稿(週刊新潮3月10日号)を引用しよう。
「プーチン自身は狂人でもなければ、郷愁に囚われたナショナリストでもありません。24時間、国のために働くことができる国益主義者であり、典型的なケース・オフィサー(工作担当者)」
佐藤氏はロシアの今回の行為を全く是認できないと断ったうえで、プーチンは国際法を無視しているのではなく、巧みに「濫用」していると書く。
そして、友人のロシア政治学者の著書を引き、プーチンの中にある「独自の価値基準」に照らした時、ウクライナのNATO加盟への動きや、首都キエフの府主教が3年前モスクワ総主教庁から独立し、トルコ・イスタンブールに帰属したことが「悪」に映ったと判ずる。